『室生犀星文学アルバム』の出版


 
 今年は室生犀星歿後五十年(1962年逝去)にあたる。これを記念して、菁柿堂から『室生犀星文学アルバム・切なき思ひを愛す』が上梓された(発売:星雲社)。笠森勇室生犀星記念館館長が書いている。こちらはそれほど熱心な読者ともいえないが、同感である。
……俳句に始まり、詩、小説、随筆など全てのジャンルにわたって縦横に活躍した犀星は「言語表現の妖魔」とも称されます。その犀星ワールドの広さと深さは、〈いのち〉への見直しを迫られている当今の世相のなかでいちだんと光を放っています。……(同書p.80)
「犀星の熱心な庭造りは、自分を含めた小宇宙の建設であろう」(小島千加子氏)との、数葉の庭の写真にも興味が湧くが、こちらとしては、犀星の虫好きとしてのエピソードがとくに面白い。軽井沢の別荘で、出入りの経師屋さんからキリギリスを、追分の堀未亡人や福永武彦さんからクサヒバリ(コオロギ)をもらう話のところなど、犀星の悦びを想像してしまう。書斎には、小型の机の上に四角い大小さまざまな虫籠が重ねられたそうである。 

 犀星にクサヒバリをプレゼントした、福永武彦の署名入豪華限定本『夜の三部作』(講談社)をひさしぶりに撫で回してみた。箱入りで、本文用紙は特漉用紙、表紙は仔羊バックスキン朱赤、扉は鳥の子びらきほか贅沢な製本になっている。限定500部中334号を所有。内容は、「冥府」「深淵」「夜の時間」の三つの小説から構成された一つの作品。「もはや書痴なし」のビブリオマニアには遠いが、昭和45年に定価1万円発売のこの書はわが自慢の1冊である。 
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町に咲く、白山吹。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆