フェデリコ・フェリーニの『8½』と D.ルヴォー演出ミュージカル『nine』(2005年6/9)

 フェデリコ・フェリーニ監督の『8½』(フェリーニ監督8+½作目の作品という意味)は、1965年9月銀座アートシアターで観ている。
 映画よりも、むしろこの作品をベースにしたミュージカル、アーサー・コピット台本、モーリー・イェストン作詞・作曲、マリオ・フラッティ翻案、デヴィッド・ルヴォー演出のミュージカル『nine』(2005年6/9 アートスフィアにて)の方が、水を使って幻想的な舞台で印象深かった。

 上演プログラムに、フェリーニの映画を愛する橋本治が「ゴージャス8½」と題して寄稿している。橋本治にとってのフェリーニ映画は「とても贅沢でなにも考えないですむ“楽なもの”なのだ。視覚で楽しむ音楽のようなもの」とのこと。そして、
 

 フェリーニは、露骨にアホな女が好きで、その好きさが自分でもよく理解できてなくて、振り回されていて、しかし、人のいい知的な女が好きで、そんな混乱した自分を理解してくれるはずのもっと知的な女も好きで、ただきれいなだけの女も好きで、クラウディア・カルディナーレももっと好きで、困ったもんだ。でも、男というのはそういうもんだから仕方ないと、『8½』が好きでたまらないと私は思う。
 誰かを「好きだ」と思って、でもそれを思う自分はやっぱり独りで、自分の現実を“自分の現実”として受け入れて、それを「幸福だ」とも思っても、でもやっぱり男というものは、それからしばらくして、ほんのちょっとの割り切れなさを感じる。だからこそ、小さな男の子一人が取り残されて消えて行く『8½』のラストがあるのだろう。「それでいいじゃないか」と言い切れるだけのゴージャスがあるから、『8½』が好きなのだ。