デフォー『疫病流行記』(現代思潮社)もお忘れなく

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   カミュの『ペスト』は、昔黄色い箱の新潮社『世界文学全集』のカミュの巻で読んだ記憶があるが、作品としてその内容をより鮮明に覚えているのは、1665年ロンドンを襲った疫病流行を題材とした「記録風の物語」、デフォーの『疫病流行記』(泉谷治訳、1967年 現代思潮社古典文庫)のほうである。訳者解説で訳者は、「本書には人を信じこませてしまう不思議な魅力がある」とし、事実に基づいて「統計的リアリズムにたたみかけられる」と、「淡々とした文体」の魔力もあって、もはや事実にもとづいているかどうかなど問題にもならなくなってくる、と解説している。

 そのくだけた話しかけるような調子に、現代のわれわれは、あるばあいには今では失われた作者との対話を強く意識し、またあるばあいには、その押えられた文体のゆえにいっそう不気味さを増していることに気づく。すべてを頭で考え出したカミュの『ペスト』と比べてみるとき、すべてを事実にもとづいてつくり上げた文体の迫力、事実の強さというものを、今さらながら痛感するのである。この魔力は、いつの世の人々の興味をもそそらずにはおかないであろう。