森新太郎演出『メアリ・スチュアート』観劇

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)第一幕:イングランドの北辺、スコットランドとの国境に近いフォザリンゲイ城の一室。▼暗い空間での、囚われの身のメアリ・スチュアート長谷川京子)と乳母ハンナ(鷲尾真知子)との会話。意図的にくぐもった声で奥からメアリが登場するが、難聴ぎみのこちらにはほとんど聴き分けられない。不当な仕打ちに対する憤りと悲嘆のやりとりであることは、雰囲気から察することができる。エリザベス女王の側近の高官たちが訪問し、これから始まる惨劇の予兆を暗示する展開。
  第二幕:ウェストミンスターの宮殿。▼エリザベス女王シルビア・グラブ)と側近高官たちとの会話。メアリと狩の場で偶然出会うという設定で会ってみるという、レスター伯ロバート・ダドリー(吉田栄作)の提案を女王が承諾する。そして、女王とレスター伯は激しく抱擁。女王はレスター伯を押し倒して馬乗りになる。権力関係が恋愛関係に反映しているともいえるし、恋愛関係そのものが権力関係であることを暗示してもいる。鈴木忠志演出の『トロイアの女』の舞台ではリアルな強姦の場面があり、とくに今さら衝撃的な演出でもないが、男と女のパフォーマンス的位置が逆であるところが新鮮なところか。肉体をもったひとりの女であれば、女王もメアリの美貌に嫉妬するだろうことが予想されるのである。
)第三幕:猟園の近く。▼エリザベス女王とメアリがついに邂逅。叛逆の意志などなく、矜持を抑えて許しを乞うメアリに対して、エリザベスはその顎に手を置いて嘲笑した。メアリは耐えられず反撃、そもそも自分にもイングランド王位の継承権があるのだと主張し、エリザベスは怒り立ち去ってしまう。メアリの〈ストーカー〉のような若きテロリスト、エドワード・モーティマーは仲間と共謀してエリザベスを襲うが失敗してしまう。メアリもこの計画に加担するとの、偽のメアリの手紙をレスター伯に渡していたのだ。
  第四幕:ウェストミンスターの宮殿。控えの間。▼暗殺者モーティマーは警備隊に取り押さえられ短剣で自害。しかしメアリの事件への加担の罪は消えず、城の外に迫った民衆はメアリ処刑を訴えるのだった。エリザベス女王は逡巡の末、死刑執行書に署名して執行官(青山伊津美)に手渡す。執行官はどうしたものか苦悩してしまう。それを大蔵卿バーリー(山崎一)が奪って、メアリの処刑が決定づけられる。ハンナ・アーレントが追求した「アイヒマン問題」がここにもあったわけだ。女王は重大な責任・判断を臣下に放り投げてしまった。
)第五幕:フォザリンゲイ城の一室。処刑を前にして、カトリック教徒のメアリは告解をしたいが、司祭が不在では叶わぬと嘆く。と訪れたかつての執事メルヴィル(青山達三)が、フランスで司祭の資格をとっているとのこと、メアリは自分は女王暗殺の陰謀に加わっていないが、女王を許すなどと告解し、必要な手紙を託して、断頭台に赴くのであった。断頭台までハンナが一緒に付いてくることを許可してもらった。ここのところ、あやうく涙が出そうになった。
  第六幕:ウェストミンスター。宮殿の一室。▼メアリの陰謀への加担の証拠とされた手紙がモーティマーの書き換えとわかり、エリザベスは執行官をロンドン塔送り、処刑を実行したバーリーを城外追放とした。最後まで正義を貫いたシュローズベリー伯タルボット(藤木孝)に永く側にいてほしいと女王は頼むが、タルボットは老齢を理由に断る。ひとり残ったエリザベス女王は、舞台の端でみずからの孤独とそれには負けない王としての矜持を示して立つのであった。シルビア・グラブに拍手。

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