かつて購読していた『日本経済新聞』日曜日連載の、比較文学者芳賀徹氏の、味わい掬すべきエッセイ『詩歌の森へ』を愛読していた。2000(平成12)年2/27掲載の「春は名のみの」で、吉丸一昌作詞、中田章(あきら)作曲、『新作唱歌』(大正2年)中の一篇「早春賦」のことが紹介されている。
……吉丸一昌は国文学者、王朝以来の早春の修辞学をよく心得ていたのだろう。だから—
雪のうちに春はきにけりうぐひすの氷れる泪いまやとくらむ
古今集・二条后(にじょうのきさき)
谷河のうち出づる波も声たてつうぐひすさそへ春の山風
新古今集・藤原家隆
三島江につのぐみわたる蘆の根の一よ⦅一節(よ)=一夜⦆のほどに春めきにけり
後拾遺集・曽根好忠
などの名歌は、みな「早春賦」の鶯や葦の映像の古層をなして、この大正唱歌に深い奥ゆきを与えたのである。それにしても「角ぐむ」とは、なんと美しい日本語だろう。……
※角ぐむ:草木の芽が角のように出はじめる。葦(あし)・荻(おぎ)・薄(すすき)・真菰(まこも)などに多くいう。
https://kotobank.jp/word/角ぐむ-572136(「コトバンク:角ぐむ」)
- 作者: 芳賀徹
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