現代日本において、6人のうち1人の子供が貧困状態にあるという「都市伝説」と捉えられかねない「意外な」現実を認識し、そのことがじつはマクロな日本経済の将来にも大きく関わってくる問題であって、だから誰もが他人事ではなく「ジブンゴト(自分事)」ととして対処すべきであることを訴えているのが、日本財団「子どもの貧困対策チーム」のメンバー、青柳光昌、小林庸平、花岡隼人三氏の『子どもの貧困が日本を滅ぼす』(文春新書)である。(※わがブログでは「子供」と書いているが、ここでは以降この本の記述通りに不本意ながら「子ども」と表記。)
とうぜんのことであるが「子どもの貧困は子ども自身が貧困なのではなく、家庭の貧困によるものである」。所得階層の下から10%目の子どもが属する世帯所得が、所得階層の真ん中の世帯所得に比べてどれだけ離れているかを示す指標である、相対的所得ギャップでみると、日本の相対的所得ギャップは60.2% で、先進諸国41カ国の中では下から(大きい方から数えて)8番目である。しかも下位10%目の所得はこの10年で見ても減少しているとのこと。「日本は他国に比べて貧困率が高いだけでなく、子ども間の格差も広がっていることになる」。この本が注目する相対的貧困率ではなく、「ジニ係数」を指標とすれば、違った現状が見えるようである。ともあれ「子どもの貧困問題の深刻さ」が存在することはたしかであろう。
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2005apr/shihyo/
(「ジニ係数とローレンツ曲線」)
http://top10.sakura.ne.jp/CIA-RANK2172R.html(「世界・収入不平等指数ランキング」)
子どもの貧困問題は、国家の財政問題でもある。現在貧困状態にある15歳人口の子ども約18万人の貧困が改善された場合、生涯合計所得約25兆5000億円になるが、放置された場合は約22兆6000億円まで減少するとのこと。
……国家の財政収入への影響はさらに深刻である。子どもの貧困が改善された場合は、もたらされる財政収入は約6兆8000億円だが、子どもの貧困が放置された場合は約5兆7000億円まで減少し、その差は1兆1000億円である。子どもの貧困の放置によって、財政収入がなんと15%以上減少することになる。これを一年当たりで換算すると、毎年約240億円が失われることとなる。
そして2兆9000億円の所得減および1兆1000億円の財政収入減は、現在15歳わずか一学年を対象とした結果である点に注意していただきたい。貧困は全ての学年に及んでおり、子どもたち全員を対象にすると、社会的損失は膨れ上がることになる。……(p.74)
生活保護世帯の高校中退率は全世帯の3倍に達していて、中卒と高卒では就業率や正規雇用者割合に大きな差があることから、生活困窮者自立支援法に基づく施策が高校進学に重点が置かれているが、それのみではなく、高校を「卒業するまで」の支援が必要であるといえる。
現在は自立した生活を営む、自立援助ホーム、生活保護・ひとり親家庭、児童養護施設など出身の人たちへの聞き取りから、自立の可能性を考察している。「自立する力」の伝達行為を「社会的相続」という概念で捉えると、貧困の連鎖を断ち切るための方策と展望が見えてくる。自立する力の要素は、お金・学力・非認知能力(意欲、自制心、やり抜く力、社会性など)であり、貧困対策としては社会的相続の補完が有効であり、とくに非認知能力の補完が重視されるべきである。アメリカでの科学的研究で立証されていることなのである。
ハイスコープ教育財団による、貧困家庭の子どもに対する幼児教育の効果を測定した「ペリー就学前計画」プロジェクト、ノースカロライナ大学のフランク・ポーター・グラハム子ども発達研究所による学力と貧困の相関研究「アベセダリアンプロジェクト」、シカゴハイツに二つの「シカゴハイツ幼児センター」をつくり、親をも巻き込んだ比較研究を現在進行形で実施しているプロジェクトの三つの研究事例が代表的である。これの結果から、子どもの貧困対策は「いずれも将来の所得や就業形態に大きなインパクトを与えて」いることが示唆的である。「子どもの貧困対策に投じられる費用と、その後に得られる便益を比較しても、投資対効果は非常に大きい」ということになる。
日本財団とベネッセホールディングスによる「子どもの貧困対策プロジェクト」では、子どもの貧困問題は、経済的な貧困に加えて「関係性の貧困」問題があるとの認識で、自立を促す拠点としての「家でも学校でもない第三の居場所」の設置を試みている。社会的相続の補完サービス、地域との連携、施策の効果検証の三つの機能を与えている。