小松光&ジェルミー・ラブリー共著『日本の教育はダメじゃない』(ちくま新書)

【学力の国際比較調査】
1)ピザ(PISA・学習到達度調査):2000年から3年に1度実施。調査科目は、数学・理科・読解で、それ以外の科目も適宜加えられる。学校で基礎的な内容を、新しい目的に対して想像的に使えるか→21世紀型学力を測る調査。2012年に「創造的問題解決」という科目の調査を導入・実施している。2018年には80カ国近くが参加している。
2)ティムズ(TIMSS・国際数学・理科教育動向調査):学校で習った内容をきちんと覚えていて使えるか→20世紀型学力を測る調査。4年に1度実施。

▼以上のように、ピザのテスト結果について、どのように受け取るかは難しい部分がありますが、それでも、日本がピザやティムズにおいて概ね良い成績を収めていることは、まったく無意味とも思えません。ピザやティムズで測られる能力が人間にとって最も重要なものなのかはわかりませんが、それでもそれは何かの能力ではあります。また、大人のためのピザであるピアックでも、日本が良い成績を収めていたということは、大人たちも何らかの能力を持っているということです。▼(p68)
 日本の子供たちが勉強のしすぎで、その結果ではないのかという予想される批判に対しても国際比較のデータで反論している。学校の内外含めた総合的学習時間についての国際比較をしている。
▼以上でわかるのは、社会階層にかかわらず、日本の子供たちの学習時間は長くはないということです。確かに、社会階層の高い学校の子供たちの順位は、社会階層の低い学校の子どもたちの順位よりずっと上です。ですから、日本の社会階層の高い学校の子供たちは、社会階層の低い学校の子供たちよりも、相対的にかなり勉強しているとは言えます。それでも、社会階層の高い学校の子供たちの勉強時間でさえ、OECD諸国の中では少ないほうです。▼(pp.79〜82)
「授業研究」という教員グループの、より良い授業構成と実践についての日常的取り組みこそ、日本の教員の教育力を高めているとの、国際的評価と研究がある、ということの重要性。教育行政に携わる方々はその認識をもってもらいたいと提言している。 

OECDという組織はいささかヨーロッパ中心主義的で、ヨーロッパ以外の地域に対して否定的な見解を表明することも多くあります。ですが、日本の学校教育に対しては、このように肯定的な評価を与えています。さらに重要なことに、シュライヒャー氏(❉OECD教育・スキル局長)は、日本が教育を一新することなど、まったく求めていません。そうではなく、彼が日本に期待するのは「世界をリードする教育を維持すること」です。「維持」(!)ですよ。
 日本の学校教育を肯定的に評価しているのはOECDだけではありません。海外の研究者でも、日本を訪れて学校教育を観察・研究した人の中には、日本の教育に対して肯定的な評価をする人が多くいます。▼(p.168)

▼キャッチアップ精神が生き続けているから、日本人はアメリカ人・イギリス人と比較して、能動性・自立性が欠けている(アクティブでない)と感じられるのです。そして、その欠落を埋めるために教育を変えれば、日本の子供たちは創造的になり、最終的に日本の経済や社会が良くなると信じられるわけです。
 この信仰がとても強いためか、アクティブラーニングはアメリカでは主に大学レベルの教育政策であるのに、日本では小学校から大学まで大々的に取り入れる方向に進んでいます。このようにアクティブラーニングは、元々の文脈から拡大されて輸入されているのです。
 さらに悪いことに、日本はアクティブラーニングを輸入したことさえ忘れてしまっています。ですから、輸入元のアメリカでその後どうなったのか、調査も報道もされません。実は、輸入元のアメリカではアクティブラーニングはすでに下火で、今は「反転授業」という手法のほうが盛んです。これは、生徒があらかじめ教材を学んだのちに授業に参加し、教室ではより高度なディスカッションなどを行うというものです。▼(p.189)