天爵と人爵ー孟子の〈政治家〉像



 秦恒平『親指のマリア』(筑摩書房)、シドッチ神父と新井勘解由(白石)とのそれぞれの視点で交互に展開する物語から構成され、決して読みやすい小説ではなく、ようやく読了。
 「殉教の章〈勘解由Ⅲ〉」に、御側御用人(おそばごようにん)間部詮房(まなべあきふさ)と新井勘解由との、理想の〈政治家〉像をめぐる会話がある。
◆◆
「天爵……。どういう事ですか」と間部詮房は尋ねた。
孟子が説いているのです。高位高官は人爵、仁義忠信は天爵と。そして古人のえらいところは、天爵を修めてその結果人爵がおのずと之に従ったのに、今人(きんじん)は、はなから人爵を得たくて天爵を表むき修め、官位を得てしまえば天爵を棄てて顧みない……」
「なるほど」          ◆◆……(p.387)
 都知事の件、たとえ各行為に違法性が認められなくとも、「適切ではない」行為が常態となっていたのであれば、(古典的)東洋的政治観においてはアウトであろう。