ろくでもない事件




 東京銀座のヴァニラ画廊は、かつてはちょくちょく覗いたものだが、最近は関節痛もあってご無沙汰している。現代エロティックアートについて、あまり情報をもっていないのである。法廷で争われているとの今回の〈事件〉にはほとんど関心がない。「私がつくった作品に対して、いつもすごい勢いで怒り出すのは大抵おじさんだったんですよね」などと、日本フェミニズム直系のものの言い方にはうんざりである。
 http://www.vanilla-gallery.com/(「ヴァニラ画廊」)
 わが所蔵のアンリ・マッケローニ(Henri Maccheroni)の作品集(植島啓司監修、1993年アート・スペース美蕾樹950部限定発売)を取り出し眺めてみた。監修者の『マッケローニの夢「脳髄と子宮」』は、呟きの断片を並べたような解説である。面白い。
……たしかに、境界線を侵犯するということには歓びがある。隠されたものを見ることにも歓びがある。しかし、けっして隠された対象そのものに歓びが内在しているわけではない。ひとたび曝かれてみると、そこにはいかなる秘密も隠されていないことがわかる。いったいわれわれは何が見たかったのか。本当に求めているものはいったいどこにあるというのか。……(p.28)
……ところで、多くの女性の性器を撮った一枚ずつの写真と、ひとりの女性の性器を撮った多くの写真とでは、あなたにはどちらが興味深いだろうか。勿論、どちらが正しいかを聞いているわけではない。それらは単純に何かを知るために二つの方法なのだ。われわれは何かを知るために、まず収集する。同じものを収集するか、異なるものを収集するか、違いはただそれだけ。……(p.31)




 (アンリ・マッケローニ:撮影は、M.Godard,1971年)