昔、坂田藤十郎(当時二代目中村扇雀)主宰の近松座公演をこどもの城・青山劇場で2回観劇している。『心中天の網島』(1986年3月)と、『百合若大臣野守鏡(ゆりわか)』(1987年5月)である。『百合若大臣野守鏡(ゆりわか)』の舞台で、中村智太郎(府内秀虎)を観ている。いま四代目中村鴈治郎襲名とは、大きくなったものであり、時の流れを感じる。
当時二代目中村扇雀丈が、公演パンフレットで書いている。
……昨春、近松座がこの青山劇場で、近松門左衛門の世話物の代表作『心中天の網島』を上演致しました折り、この劇場の持つ舞台機構のすばらしさを、より良く歌舞伎の世界に活かすにはどうすればよいか、と考えました。そして、青山劇場で近松物をやるときは、時代物をやるほうが、より効果的だと結論づけました。
近松の時代物には、このたび上演する『百合若大臣野守鏡』をはじめ、『国性爺合戦』『出世景清』そして、昨秋上演した『雙生隅田川』など、すばらしい作品(もの)がたくさんあります。そこで、近松座が青山劇場でやらせていただくかぎり、時代物を主としてやりたいと考えたわけです。……(「近松座、『百合若大臣』、そして青山劇場」)
近松座の青山公演をもっと観ておくべきであったと、いまさならながら後悔しているところである。