スペインの妖花—ペネロペ・クルス

 若いころのペネロペ・クルスPenelope Cruz)は、妖しい魅力が感じられたが、出演映画を観ていないのでいまはどうか知らない。かつてHP記載の映画の感想を再録しておきたい。

◆昨晩は、ビガス・ルナ監督、ペネロペ・クルス主演のスペイン・フランス合作映画『裸のマハ』をDVD(東芝デジタルフロンティア発売)で鑑賞。途中アンペア使用量オーバーで家中停電のハプニングもあったが、どさくさにトイレ休憩をとったりしながら観られるのもDVDならではである。メニューでいくら字幕を選んでも出ないので、やむをえず日本語吹き替えにした。ペネロペ・クルスの声は十分知っているので、とくに不満もなく最後までその魅力を堪能した。
 舞台は1802年の、王妃マリア・ルイーザが絶大な権力を誇示していたスペイン宮廷である。王妃とも通じていた宰相のマヌエル・デ・ゴドイの愛人の公爵夫人カイエターナ(アイタナ・サンチェス=ギヨンが実に美しい)が姪の婚約を祝うために自ら開いたパーティの日に急死してしまう。自殺なのか? 他殺とすれば誰が犯人なのか? 政略結婚させられて自分を裏切っている夫の宰相を狙った夫人、その兄の枢機卿、カイエターナに嫉妬する王妃、宰相の若き妾ペピータ(ペネロペ・クルス)などが疑わしい人物として浮かび上がる。
 宮廷には画家のゴヤがいた。ゴヤは、カイエターナを愛し、彼女をモデルに作品を描いた。「着衣のマハ」と「裸のマハ」の二枚一組の絵である。完成した作品を観て、カイエターナは驚いた。「裸のマハ」の女の股間には恥毛が描かれていたのだ。カイエターナは、当時のフランス貴族の流行を真似て剃毛していた。そのことはゴヤもよく知っていることだった。別な女をモデルにしていることを、彼女は見破った。それが、ペピータだ。ところが、当のペピータは、ゴヤとカイエターナとの情事の現場を目撃していて、自分は裏切られていたと怒りに駆られていた。パーティーの日に、たしかに一度はカイエターナが飲むはずのグラスの酒に、猛毒であるコバルトの絵の具を垂らすが、恐ろしくなって酒を鉢に捨てているから犯人ではないということになる。王妃が医師に命じて殺害させた可能性が高いことを暗示し、ベッドでの王妃と宰相との痴態を大写しにして、映画は終わる。それほどのエロスもサスペンス性も感じられないが、「ヘアヌード」の文化史として観ると、なかなか面白い。
 この「裸のマハ」が、女性の陰毛を描いた最初の絵画作品だそうだ。後に異端審問所に告発されている。映画の始まりが、「裸のマハ」のクローズアップした股間の三角の叢から、セザンヌのあの円錐の形をしたシャンペングラスにイメージをスライドさせるつくりになっていることからも、この監督が「ヘア」にこだわったことは明らかだ。
 してみるとこの作品におけるゴヤは、作品の質を別にすれば、アラーキー荒木経惟氏、『TOKYO NUDE』(朝日新聞社)と『water fruit』(朝日出版社)の篠山紀信氏および、『YELLOWS』(ぶんか社)の五味彬氏らにあたるといえるだろうか。…(2003年1/4記)

◆スペイン映画フェルナンド・トルエバ監督、ペネロペ・クロス主演の『美しき虜』をDVD(タキコーポレーション発売)で鑑賞。
 内戦のスペインから、スタジオをもたない共和派映画スタッフをドイツのナチは友好のしるしとしてベルリンに招き、スタジオを提供する。一行のなかの若い女優マカレナ(ペネロペ・クロス)は、ナチの宣伝大臣ゲッベルスに惚れられてしまう。エキストラで撮影に、収容所からかり出されていたユダヤ系のロシア人の男と恋に落ちたマカレナは、サーカス出身のこの男をトランクに入れてゲッベルスがマカレナに用意した別荘まで連れて行き、そこで、とりあえず裸の身体をゲッベルスに投げ出す。ところが、隠れていたはずの男がゲッベルスの後頭部を置かれてあったピストルで殴打してしまい、ゲッベルスは床に倒れる。まさに絶体絶命である。仲間と駆けつけた監督は、驚くべき作戦を実行する。
 ゲッベルスの夫人のところに赴き、大臣は、離婚してマカレナとスペインに脱出し大使になる決意のようだ、ついては、マカレナをパリにメイドと共にパリに送ってもらえるよう、飛行機搭乗の許可をお願いしたい、と直談判したのだ。成功して、マカレナと恋人となったロシア人は飛行機に乗れたのだ。しかし、ベルリンでの撮影は中止となり、一行はスペインに強制送還されるが、監督だけは残されるのである。むろん彼には、逆鱗に触れたゲッベルスの報復が待っていることを予想させて映画は終わる。
 マカレナが、衣服を脱ぎながら観念して「好きなようにしなさいな」という意味の言葉をドイツ語で、ゲッベルスを前にして喋ると、「スペイン語で喋りなさい。それのほうが興奮する」と彼が命令口調で言うところに、この映画の真髄があるといえよう。
 愛は情熱と勇気なくして実を結ばないということと、わがままでもあるということがよくわかる結末である。二人の愛の成就のために、映画製作は止めさせられ、一人の男が犠牲となってしまったのである。『カサブランカ』よりも重い感想を残した、スペイン・アカデミー賞&主演女優賞を受賞した作品である。フラメンコを踊る場面のペネロペ・クルスはやはりスペインの女優を感じさせて、素敵である。(2003年1/1記)
 http://www.dailymotion.com/video/xvouyb_penelope-cruz-bath-sex-scene-in-la-nina-de-tus-ojos-1998_redband(「Dailymotion:『愛の虜』のシーン」)