かつて日銀の政策委員会審議委員も務めた植田和男東京大学大学院教授の『ゼロ金利との闘い』(日本経済新聞社)によれば、いわゆる量的緩和策の有効性については、(その後の動向次第では議論展開の余地はあるにしても)疑問であるとのことである。「量的金融指標と名目GDP(1990年代以降)」、「マネタリーベース(日銀券+硬貨+日銀当座預金)と銀行券発行高の推移」、「消費者物価指数上昇率」の三つの図表から、
……1998年以降、インフレ率はマイナスとなり、日本経済はデフレの時代に突入する。この原稿執筆時点(2005年秋)でもインフレ率ははっきりプラスとはいえず、7年間にもわたるデフレの継続という第二次大戦後では珍しい現象が発生したことになる。図表(※上記三つ)によれば、単純なマネタリズムの主張が、この時期の日本経済に当てはまらないことがわかる。すなわち、貨幣供給量はきわめて高い伸びを示したにもかかわらず、インフレにはなっていない。……(同書p.19)
金融政策がデフレ脱却に効果を発揮するするためには、それ以外の力を借りるほかはなく、それでも「極端なインフレ目標、物価水準目標、あるいは目標インフレ率を大幅に上回るリスクをとること等を掲げれば、ある程度の効果が期待できるかもしれない。しかし、こうした目標の設定がどの程度人々によって信じられるかは難しい問題である」。
……例えば、1999年の初めに、2%の率で上昇していく目標物価水準を設定し、それへ限りなく近づけるという物価水準目標を導入したとしよう。2005年時点では、物価水準は当時に比べて3%前後低下しているので、目標水準との乖離は15(2×6+3)%となる。この距離を3年で埋めようと思えば、7(15+2×3/3)%のインフレを3年間容認する必要がある。もちろん、こうした目標の設定自体が緩和効果を発揮すれば、物価水準経路を引き上げるわけなので、これほどのインフレは必要ないとしても、自然利子率の低迷が続けば続くほど、目標との乖離、将来必要となるインフレ率は高くならざるを得ない。……(同書p.178)
※「自然利子率」については、
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/yasashii4/01.html(「やさしい経済教室」)
さて日銀の新しい総裁・副総裁コンビのお手並み拝見というところだろうが、期待しないほうがよいようである。
http://tyk97.blogspot.jp/2013/02/blog-post_21.html(「大石哲之のノマド日記」)
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51838762.html(「デフレの原因」)