比較文化論には要注意

 遅まきながらロビン・ギルの『英語はこんなにニッポン語』(ちくま文庫)を読んだ。1984年11月桐原書店から出た原著に加筆訂正して、1989年5月に筑摩書房の文庫本として刊行されたものである。日本人学者らのその著作がベストセラーとなった日本人論=比較文化論を、言語の比較文化的研究者としての立場から批判・揶揄した論考となっている。面白く参考になった。
 俎上に載せられた日本人論はいずれも共通して、「外人」という架空の生物の表現・行動と比較している、というのがロビン・ギル氏の主張である。英語の用法および例文を交えての議論なので説得力があり、納得させられてしまう。
(表現において)「英米人=ダイレクト、という方程式を信じて疑わない日本人が忘れていること」として、猥褻的とされる語については永く婉曲語が用いられ、その名残りは今日でも見られるとのことである。そして、國弘正雄氏の著作から引用し、
「婉曲語法(euphemisms and circumlocution→circumlocationとミス、第3刷でも)は、昨今のアメリカでは顕著である」との見解には、「ま、そのとおりだと思う」としている。
「相手の発言を読みとるsensitivityがすべて」で、海外に行ったらジョークのひとつも言わないと英米人に嫌われるなどと心配しなくともよい、と述べている。なるほど。
 感動して読んだのは次のところ。
……断わっておくが、いかに英米人が自分の意見を遠慮なく主張するように見えても、その表現の仕方は日本人が普通思っているほど粗野なものではない。ちょっとした言葉づかいの違いで自分のイメージを損ったり、相手に侮辱を加えたりする可能性はあるのである。日本人とそれほど異なっているわけではない。humility(謙遜・卑下)は日本ほど美徳とされていないが、modesty(謙遜でありながら卑下しないこと)は英米人には非常に大切にされている。tact(如才なさ、機転)あるいは人を傷つけないような配慮は不可欠だ。arrogant(高慢な)、conceited(威張った)、stuck-up(生意気な)、boastful(自慢をしすぎる)、immodest(慎しみのない)、to act uppity(思い上がって振舞う)、to think you're great(自分のことを偉そうに思う)などは、アメリカにおいても最低の評価を受けることを忘れてはならない。……(同書p.133) 
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の 、オモト(万年青) 。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆