歌人吉村睦人


「新アララギ」代表歌人の、吉村睦人さんの最新歌集『夕暮の運河』(新現代歌人叢書74・短歌新聞社)を贈られた。吉村さんは、永く開成学園の国語科教諭&教頭の職を勤めてから、私立青稜中高等学校の校長を経て、現在は各短歌講座の講師の任にあたっている。日本山岳会会員でもある。
 昔船橋のわが寓居でともに麻雀の卓を囲んだこともあり(歌人混一色の達人であった)、またかつてお住まいの杉並区のお宅にお邪魔したこともある。歌人としても教育者としても真摯に取り組み大いなる実績をあげていること、尊敬に値する。 
 この歌集は、開成学園教諭だったころの作品をまとめたものである。「多摩ノ寒葵」とのサブタイトルの作品群には、多摩の「崩さるる山よりとり来て庭に植ゑし」タマノカンアフヒを題材に詠んだ歌を集めている。さっそくこのタマノカンアフヒについて調べてみると、面白い。タマノカンアフヒ=タマノカンアオイは、ウマノスズクサカンアオイ属の品種で、多摩丘陵およびその周辺にのみ生え、いまは絶滅危惧種だそうである。
  http://www2.odn.ne.jp/had26900/wild_plant/wp4_f/tamanokan-aoi.htmタマノカンアオイ
 「崩さるる山よりとり来て庭に植ゑしタマノカンアフヒしげる一坪」
 「掘り返すブルドーザーに近づきて怒鳴られながら採りて来たりし」
 カンアオイ属には、ほかにランヨウアオイとカンアオイ(カントウカンアオイ)の二つがある。常緑で(寒)、葉が葵に似ていることからカンアオイの名となった。この三つのカンアオイは、花柱、ガク筒、葉の形状などで区別できるらしい。
  http://www.geocities.jp/tama9midorijii/ptop/tadap/tamanokanaoi.html
(三つのカンアオイ
 「ひそかなる花つけてゐるカンアフヒ葉の隙間よりをりをりに見る」
 「土の上にひそかに咲けるカンアフヒ濃き紫の筒状の花」
 「朝の日を受けて輝く厚き葉をかがまり見てゐる老いし人あり」
 「吹きたまる落葉かぶりてふるさとの多摩の横山のごと茂るカンアフヒ」
 このカンアオイを食草とするのが、ギフチョウで、ギフチョウにも〈舌の〉好みがあるのか、ランヨウカンアオイを好んで食べ、タマノカンアオイは〈グルマン〉ギフチョウはあまり食べないらしい。
  http://michibatashizen.sakura.ne.jp/satoniki-16.htmギフチョウカンアオイ
 「わが庭のタマノカンアフヒにひらひらと近づく蝶をわれは見てゐる」
 「タマノカンアフヒを食草とする岐阜蝶が見られなくなったと嘆き言ふ声」
(「第一歌集『吹雪く尾根』」)
(「第二歌集『動向』」)
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、ロードデンドロン(Rhododendron=西洋石楠花)の花芽。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆