志と生活


 イタリアから、旅の贈りものとして空輸で届いたアリオネ社のDOCG(格付け)ワインBAROLO(赤)などと、久保田の千寿を味わっているうちに、はや1月半ばも近くなってしまった。
 昨年亡くなった黒岩比佐子さんの『パンとペン』(講談社)をようやく完読。400頁を越す評伝を一気に読み進めるのには難渋する。「歴史そのまま」の事実経過の記述(誤りも含めて)が多いから、巻を措く能わずといった読書にはなり得ない。
 憲兵大尉甘粕正彦によって大杉栄伊藤野枝(&甥)が惨殺された(とされた)とき、じつは堺利彦憲兵隊のターゲットになっていたらしい。関東大震災の折、堺利彦は市谷刑務所に収監されていたため難を逃れた、というのが真相のようだ。また、情死する何カ月か前の有島武郎に、堺利彦から、幸徳秋水所蔵の『資本論』(英語版)が贈られていたとの記述も興味深いことだった。「あとがき」を読むと、堺利彦の孫近藤真柄の娘近藤千浪さんが2010年6月に急逝していること、および著者ご自身が09年に膵臓がんに罹患していたことがわかる。
「冬の時代」と呼ばれる過酷な時期に同志の衣食を支えた、堺利彦の「売文社」への著者の共感と哀惜が一貫して感じられる。社会主義というもはやlegacyであろう社会システムのことはさておき、志をどう貫くかということとして考えるならば、「売文社」というあり方は、依然として今日的問題を提起しているといえよう。
「理想を追うためには、どうしても金銭が必要になる。その金銭を得るために何か手段を講じるのは当然で、座して死を待つべきではない。誤解を招くことも怖れず、批判を受けることも承知の上で、堺はこの時期に売文社の大拡張を推進していった。」(同書p.318)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の山茶花。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆