(1985年初演時の『the座』)
井上ひさし作『日本人のへそ』(こまつ座公演)をネット配信にて観劇した。25(木)の生配信は、大相撲中継と時間が重なったため視聴できず、翌日のアーカイブ配信で視聴。
東京・紀伊国屋サザンシアターでの公演で、栗山民夫の演出。この作品は、同じ栗山民夫の演出で、1985年の初演の舞台を、85年2/4千葉・市川市民会館で観ている。そのときは、主役のストリッパー、ヘレン天津は石田えりが演じている。吃音者の治療のための芝居という設定で、その芝居もまたもう一つの芝居の中の相互演技という、入子構造の物語。日本の権力構造の基底にあるエロス的関係性を、ブレヒト風な〈異化効果〉で提示しようとしたのであろうか? ヤクザ・軍隊・右翼の男集団にホモセクシュアルの関係が潜在しているという捉え方は、現代のホモソーシャル・ホモセクシャルの関係の区別をとうぜんの前提とすれば陳腐である。これら男集団の基底的関係性は、ヘテロホモソーシャルであろう。
サウナはヘテロホモソーシャルを抽象的に煮詰めたものと見た方がシンプルかも。だが「サウナ」には別の顔がある。別の意味でそれは男たちの世界なのだが、そうならないというヘテロホモソーシャル。スポーツのチームやヤクザの組織もそう。サウナの熱は、そういう組織活動の熱気を抽象化している。
— 千葉雅也『ツイッター哲学』発売 (@masayachiba) 2021年3月9日
ヘレン役は小池栄子。ノリがいい。ストリップの特訓で、「縦、縦、横、横、丸描いてチョン」と教えられるところは愉快であった。1985年初演プログラム『the座』3号では、当時のロック座経営者斉藤智恵子が、こまつ座の井上好子との対談で「いまはそんな教え方はまったくないですね。英語ですね。ほとんど“バンプ”とか」と語っている。なるほど。
作者の井上ひさしは、日本共産党支持の劇作家だったので、国家と国民との間の権力支配の関係を問題にしているが、今日私的な関係における権力支配の関係が、とんでもない暴力性を帯びることが、神戸の小学校での教員間の〈いじめ〉事件、福岡での〈ママ友〉洗脳による幼児餓死事件などのニュースに接すれば納得できるところである。
井上ひさしの元妻は夫に顔が風船のようになるまでボコボコに殴られてたけど、編集者に「耐えて下さい」と言われたんだよね。これは男女差別と捉えるよりも、周囲は常に強者の方につくからこの手の問題が発生すると考えた方が良い。
— ☕petty_bonitas🍰 (@petty_bonitas) 2021年3月27日
この劇作家がDV男であったことはいまでは周知されているが、むろん作品の出来とは切り離して考えたほうがいい。深さはともかく、芝居としてはテンポよく面白く観劇できるだろう。なおストリッパー役の小池栄子は、大きな日の丸デザインの扇子2面で裸体を隠して登場する場面がある。1985年初演の石田えりも同じ。石田えりは、この後ヘルムート・ニュートン撮影の写真でフルヌードを晒すのであるが、小池栄子にも期待したい。