新村聡・田上孝一編著『平等の哲学入門』(社会評論社)を読む(1)

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 新村聡・田上孝一編著『平等の哲学入門』(社会評論社)。第Ⅰ部「平等の思想史」のアリストテレス(第1章)、ルソー(第2章)、アダム・スミス(第3章)の三章を読んだ。とくにアダム・スミスのところが新鮮であった。
アリストテレス】石野敬太(早稲田大学助手)
⃝1)国制を介した制度的な関係であること、2)互恵的な関係であること(審議と判決の公職に参加する権能を有する者=無条件の市民が順番に公職に就く)、3)配分的正義(各人の功績・価値に応じて名誉・財貨・公職が分け与えられること)に即した関係であること。奴隷、女性、農民や商人などを政治的な領域へ参加させていないという、歴史的限界があること。
【ルソー】吉田修馬(上智大学特任准教授)
⃝……個人の能力差という意味での「自然的な不平等」は確かに存在するが、それが社会でどのような影響力を持つのかは、社会のあり方、社会における人間や人間関係のあり方しだいである。社会において当たり前であるかのように存在している不平等は、実は思われているほど当たり前ではない可能性がある。『人間不平等起源論』はそのような視座を示唆している。……(p.59)
⃝所有権こそ人類の不幸と不平等の源泉としながらも、所有権の廃絶は主張していない。大土地所有が広まってしまった後で、大地主から土地を没収することは否定している。つまり、良い社会にとって平等が重要であると考え、不平等の防止を重視しながらも、いったん拡大してしまった不平等の縮小や緩和についてはそれほど熱心に議論していない。
⃝1)社会においては全員で作った法律に全員で従うべきで、こうして自然状態にあった自由と平等の結びつきが実現する、2)個人間の経済的な不平等は、結局は法的・政治的な不平等(さらに文化的不平等)を招くのであるから、あまりに大きな経済的不平等は抑制しなければならない、3)平等・不平等を考えるときに、人類に共通する弱さや不完全さについての想像力が、冷静で論理的な思考力とともに重要である。
アダム・スミス】新村聡(岡山大学特命教授)
◎主要著作の各段階で平等論をめぐって変遷・転換がある。
⃝『道徳感情論』の場合:1)土地所有の不平等→奢侈品(邸宅・装飾品など)消費の不平等→品者の勤労を刺激し労働生産力を高める→生活水準が一定で維持される人口数の増加、つまり功利主義的な不平等正当化論。2)(結果としての)生活必需品の消費量の平等を理由とした(原因としての)土地所有の不平等の正当化、という視点の移動。労働原則をまったく無視したわけではないが、労働原則(労働に応じた分配)における不平等よりも必要原則(必要に応じた分配)における平等をいっそう重視している。
⃝『法学講義』と『国富論草稿』の場合:1)未開社会の土地共有と文明社会における土地私有の不平等(大土地所有と小土地所有)を比較している、2)高い労働生産力の原因は、勤労よりも分業の成立にあるとしている、3)消費財が生活必需品・便益品・奢侈品の三つに分類され、労働生産力の上昇によって各人が消費する生活必需品のみならず便益品も増加することを強調している。ヒュームが労働者の労働分配率に注目したのに対し、スミスは労働生産力の上昇に注目している、という見解の違いがある。
⃝『国富論』の場合:1)労働者の人口構成では、資本によって雇用される勤勉な生産的労働者の割合が上昇し、労働者全体の平均的な社会的性格もより勤勉になっていく、2)利子率が下がって、不労所得で生活する利子生活者が減り、労働者と資本家のだれもが労働してその労働に比例する所得を手にする平等社会が実現する、3)相続法の廃止により均分相続が実現すれば、長期的には大地主が減って小地主が増え、地主階級内部の平等化が進む→勤勉となった小地主と労働者階級の所得・労働比率はしだいに平等化していく。しかし長期的はスミスはオプティミストであったが、短期的にはリアリストであった。地主が負担する土地税を増税し、利子生活者に課税する印紙税・登記税を強化、そして必需品消費税を廃止するなどの税制改革を提案している。そして通行税・家賃税・相続税などの累進的税制を支持し、それによる所得再分配をはかり所得の平等化を可能な限り実現しようとしたのである。