また一つ観劇の思い出が刻印された芝居小屋が消える。寂しいことである。どこかよそよそしそうだが、間違いなくヨーロッパの〈教養〉が身につく都会の空間という印象を与えた劇場空間であった。幕間の休憩時間に階上から下のロビーを眺めるのは楽しいひと時であった。これまで観てきた劇場公演を整理し、過去の闇のなかでの愉悦を思い起こしたいものである。
⦅ピーター・ブルック演出『カルメンの悲劇』1987年。カルメン=パトリシア・ミラー(メゾ・ソプラノ)、ドン・ホセ=ルーベン・ブロイトマン(テナー)、ミカエラ=アグネス・ホスト(ソプラノ)のキャスティングで観劇。⦆
(ピーター・ブルック演出『マハーバーラタ』1988年。銀座セゾン劇場開場1周年記念公演と銘打っている。幕間途中休憩がなく難儀したことを覚えている。日本人俳優・演出家ヨシ・オイダがここに出ていたことにいま気がついた。)
(ガルシア・ロルカ作、ビクトル・ガルシア演出、ヌリア・エスペル劇団公演『イェルマ』1988年8月。この作品は、1980年12月新宿紀伊国屋ホールにて、村田大演出、岸田今日子主演、演劇集団・円公演の舞台ですでに観ていた。ロルカ作品では、『老嬢ドニャ・ロシータ』のほうが好きである。)
(ヒュー・ホワイトモア作、浅利慶太演出『ブレイキング ザ・コード』1988年。劇団四季創立35周年記念公演と銘打たれている。この劇団の最近の舞台は、あまり観ていないが、昔日下武史は別格で好きな俳優であった。)
(山崎正和作、末木利文演出『世阿弥』1988年11月。若き熊谷真実がいきなり裸を見せたので感動した。その後山崎正和氏の著作を読むとき、いつもこの舞台のことを思い起こす。)
(オスカー・ワイルド作、スティーブン・バーコフ演出『サロメ』1992年4月。バーコフ自身がヘロデを演じている。)
(サム・メンデス演出、ロイヤル・ナショナル・シアター公演『オセロー』1998年。これぞシェイクスピアの舞台か。)
(リュック・ボンディ演出、テアトル・ヴィディ・ローザンヌ公演『フェードル』1999年1月。これぞラシーヌの舞台か。)
【ル テアトル銀座】
(鍵田真由美&佐藤浩希演出・構成・振付『FLAMENCO曾根崎心中』)
(栗山民也演出『イリアス』2010年9月。アンドロマケ=馬淵英俚可の美貌と、カサンドラ=新妻聖子の声の美しさに酔えた舞台。)
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、アジアティック・ハイブリッドのユリ。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆