クラウディオ・アバド追悼


 マエストロ・クラウディオ・アバド指揮の音楽を生で聴いたのは2回だけである。昔ロンドンレコードLP盤、ジャン・マルティノン指揮・ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団チャイコフスキー作曲「悲愴」は名盤の誉れあり、何度も聴いていたが、ある日そのころマエストロとして頭角を現わしていたクラウディオ・アバドによる、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「悲愴」(ポリドールLP盤)を聴いて驚いた。指揮者によって同じ曲の印象が異なることもあることをはじめて知ったものだ。このLP盤の音源となっているウィーンでの演奏と同じ年、1973年にアバド指揮の演奏を聴いている。この年は調べてみると、前年11月東京文化会館で、ズービン・メーター指揮、ロスアンゼルスフィルハーモニー管弦楽団の演奏(ブルックナー)を聴いてからその勢いでか、1月に、東京文化会館ロリン・マゼール指揮・ベルリン放送交響楽団の演奏(ベートーヴェン)、3月に東京文化会館クラウディオ・アバド指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏(ブラームスベートーヴェン)、6月に東京文化会館で、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮、レニングラードフィルハーモニー・アカデミー交響楽団の演奏(ショスタコービッチチャイコフスキー)、11月に、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏(バッハ&ブルックナー)を聴いている。ピアノほか楽器演奏ができず聴き分ける耳もないので、圧倒的感動のムラヴィンスキー指揮、チャイコフスキー作曲「交響曲第5番」の演奏以外は記録のみで演奏そのものの記憶は定かではない。なおカラヤン指揮では、1979年10月東京普門館ホールでのハイドン作曲・オラトリオ「天地創造」の演奏(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)は素晴らしかった。


 アバド指揮の生演奏ではもう一つ、1981年9月、ミラノ・スカラ座のオペラ『シモン・ボッカネグラ』での、ミラノ・スカラ座管弦楽団の演奏を聴いている。ジョルジュ・ストレーレル演出のこのオペラは豪華にして鮮烈、楽しめた。音楽評論家畑中良輔氏が当公演の音楽と演出について述べている。
……まず指揮のアバド。それは少しの無駄もない、徹底したスコアの読みから発した音楽づくりの見事さ。ヴェルディにおけるドラマと音楽の重層的な構造を明確にし、剛毅な枠づけの中に、繊細なニュアンスを溢れさせる。スカラのオーケストラは、この微妙な息づかいに応えて、ヴェルディの書き込んだ音符の意味をひとつひとつ具体化して行く。その音楽の流れはまことにスリリングでさえある。凡(あら)ゆる楽器が《オペラ》を歌っている。合唱も何という立体感をもってこのオペラを支えていることか。まさにここには《オペラの血》が、どこの小節を切っても溢れて来るような生命の迸(ほとばし)りがある。
 これに呼応して、アバドの音楽を完璧に視覚化し得たストレーレルの演出(美術・衣裳フリジェリオ)が、この公演を成功に導く大切な要件ともなっている。……(「朝日新聞」1981年9/2)



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