土方巽とともに日本の「舞踏」を創造してきた、大野一雄翁が、大往生したとのこと。土方巽の舞踏は、ナマで観ていない。ただ細江英公氏の限定版写真集『鎌鼬』(現代思潮社)で窺うのみだ。
大野一雄の舞台は、その代表作とされる『ラ・アルヘンティーナ頌(しょう)』を、85年2月に東京有楽町朝日ホールでの『Butoh Festival '85』中の一公演で観ている。アルゼンチン生まれ(1890〜1936)の世界的女性フラメンコダンサー、ラ・アルヘンティーナ(アントニア・メルセ・イ・ルケ)へ捧げられた舞台である。まるで朽ちかかった老木に、ある瞬間だけ咲いた花といった趣の展開であった.鑑賞後興奮冷めやらず、当時銀座の某実力派シャンソン歌手がママさんの、クラブ『シェ・マリ」に寄って、精神のバランスを恢復させた記憶がある。ご冥福を祈りたい。
舞踏ではほかに、土方巽の流れをくむ、天児牛大(あまがつうしお)主宰「山海塾」の『縄文頌』の舞台を観ているのみ。これは、面白かった。NHK大河ドラマ『龍馬伝』で土佐の吉田東洋を演じて、異質な存在感を見せつけた田中泯の舞台は、『Butoh Festival '85』で見逃してしまった。