アルバン・ベルク作曲『ヴォツェック』(11/18 新国立劇場オペラパレス)観劇

 ゲオルク・ビュヒナーの戯曲『ヴォイツェック』をアルバン・ベルクがオペラ作品化したもの。1885年に生まれ、1935年に没している。オペラ作品『ヴォツェック』は、1922年4月に完成、1925年12月ベルリン州立歌劇場で上演され、一夜にしてオペラ作曲家としての名声を確立、高い上演頻度により、ベルクの生活は作曲だけで成立できることとなった。ナチ時代前夜であったからであろう。
 あらすじは単純で、理髪師から兵士になった貧しいヴォツェックが、軍の鼓手長からパワハラを受ける毎日。家には内妻のマリーと幼い息子が彼の帰りを待つ生活を送っていた。貧しく精神を病むヴォツェックとの生活に疲れたマリーは、いつしか誘惑してきた鼓手長との不倫の泥沼に嵌り、宝石も贈られいい身なりを楽しむが、やがてみずからの罪を悔いることになる。ヴォツェックは忍耐の限界を超えて、鼓手長を刺殺し、そしてマリーも刺し殺す。ヴォツェックは沼の中に沈んで消えてしまうのであった。
 音楽的に特徴的なのが、「シュプレヒシュティンメ(リズム的朗唱)」という「語り」が「歌」とともに交わされるところ。その中心は、ヴォツェックと内妻マリーとの激しいやりとりの場面。「シュプレヒシュティンメ」は、旋律・リズム・強弱が規定された「語り」である。ヴォツェックの「シュプレヒシュティンメ」は狂気の表現で、その他も歌唱との響きにおいての効果的コントラストがある、とのこと。
 終幕でヴォツェックとマリーの息子が、少年兵たちが集まっている兵舎にいて鼓手長を思わせる少年の顔を整えている。つまりこの序列的人間関係とやり切れない生活、そして惨劇が繰り返されるであろうことを予感させているのだ。救いがない世界ではあるが、大野和士東京都交響楽団演奏の音楽が心にある充実感を残して、絶望はどこかに去るのである。
 なおタイトルロールのトーマス・ヨハネス・マイヤーがこの後体調不調となり、急遽11/20からカヴァーの駒田敏章が3日間みごとに代役を務めたとのこと、よかった。トーマス・ヨハネス・マイヤー(バリトン)は、新国立劇場で、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』『フィレンツェの悲劇』で聴いている。

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