LP『ル・マルトー・サン・メートル』は、昔よく聴いた

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 ピエール・ブーレーズPierre Boulez)の作品では唯一、作曲・指揮の『ル・マルトー・サン・メートル(Le Marteau Sams Maitre:打ち手のない槌)』を昔よく聴いたものである。LP解説(秋山邦晴)にあるように、ふしぎにも「あれほど鉱物質な、いわば非情なひびきをきかせながら、しっとりとした情感がただよっている」との世評通りの感想を抱いた。この録音の演奏は、次の通り。
ジャンヌ・ドウルーウベックス(アルト):Jeanne Deroubaix
セヴェリーノ・ガッゼローニ(フルート):Severino Gazzelloni
ジョルジュ・ヴァン・グーシュ(ザイロリンバ):Georges van Gucht
クロード・リクー(ヴィブラフォーン):Claude Ricou
ジャン・バティーニ(打楽器):Jean Batigne
アントン・スティングル(ギター):Anton Stingl
セルジュ・コロー(ヴィオラ):Serge Collot
指揮:ピエール・ブーレーズPierre Boulez
 http://kusa2.jp/?document_srl=1898151(「訃報2015年8月:ヴィオラ奏者 セルジュ・コロー氏」)
 1968年5月パリ学生運動以後の学生の読書傾向調査では、数学科の学生でさえその詩集を手放すことがないとされたのが、マラルメルネ・シャール。『ル・マルトー・サン・メートル(打ち手のない槌)』は、シャールの詩集『ル・マルトー・サン・メートル(打ち手のない槌)』から三つの詩が採られた作品。全9楽章中詩は、3、5、6、9楽章に歌われるのみで、あとは器楽演奏であっても、全体としてこの詩のイメージを忠実に音で形づくっているといえると、解説にある。三つの詩は、秋山邦晴訳では……

【激怒する職人階級】
刑務所のわきに 赤い車椅子
そして篭のなかの屍体
蹄鐵のなかの耕作馬たち
ぼくは夢みる
ぼくのペルー製ナイフの刃先のうえの顔を


【美しい建物 さまざまな予感】
ぼくには聴こえる
ぼくの脚のあいだに 死の海が
頭上を越える波となって やってくるのが

子供には 野生の遊歩場である突堤
大人には 模倣された幻覚

森のなかの純粋なまなざしは
泣きながら 住むべき顔をさがしている


【孤独な死刑執行人】
足音は遠ざかり 歩行者は匿された
模倣の時計の文字盤のうえに
振子は 反射する花崗岩の荷物を投げつける