島清『地上』は小説未読、テレビドラマ未視聴も映画は観ている

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島田清次郎の代表作とされる『地上』は未読であるが、新藤兼人脚本、吉村公三郎監督の映画『地上』はDVDで観た。大長篇小説の原作の一部で構成したものらしい。作家島田清次郎その人については、昔杉森久英の『天才と狂人の間』(Kawade paperbacks:河出書房新社)を読んで知っている。この本は書庫を探しても見つからなかった、残念。
 映画は面白かった。主人公の没落した名家の孫で旧制中学生の大河平一郎(川口浩)と社長令嬢吉倉和歌子(野添ひとみ)との、結ばれること叶わぬ悲恋の物語を軸に、このモテ男は、これまた没落した名家の令嬢の出で芸妓として売られて、やがては東京の有力実業家の妾の道を歩む冬子(香川京子)、友人吉田の妹道子(安城啓子)の二人からも慕われ、それでいてどの女とも抱き合えないという、大正期ならではの世界が展開する。和歌子の父の経営する工場で大規模なストライキが敢行されるも、警察権力によって排除され、たまたまそこで働きストに参加していた吉田に会いに行った平一郎も、スト応援行為として警察に捕まり、それをきっかけとして、平一郎と和歌子の恋が発覚、平一郎は停学処分となり退学してしまう。
 中国映画の傑作『菊豆(チュイトウ)』と同じ、貧しさと共同体的陋習がもたらす実を結ぶことのなかった恋を金沢の美しい風景の中に描いて、退屈しない。▼