『昆虫はすごい』を読む(Ⅱ)

 ホタルの思い出といえば、幻想的なイメージを伴っていずれも感動的ですてきであるが、丸山宗利氏はこの書でホタルの生態をめぐって違った印象を与えてくれる。ホタルの放つ光は交尾のためであるが、「固有の光の点滅間隔によって雌雄で呼び合い、交尾を行う」のだそうで、また雌だけが光る種もあるらしい。
……ところが悲しいことに、この習性を利用する天敵がいる。北米に住む肉食性のホタルであるポトゥリス属のホタルは、別種のポティヌス属のホタルの雌と同じ点滅信号を出し、それに誘引されたポティヌス属の雄を捕まえて食べるのである。
 アメリカ合衆国のシカゴに住んでいたとき、ポティヌスは近所の公園にも見られる身近な昆虫で、その光に日本のホタルを思い出して懐かしんでいた。
 しかしある晩、そのポティヌスがポトゥリスに捕らえられ、弱々しく光りながら食べられているのを見たのである。恐ろしいものを見た気持ちにもなったが、この不思議な現象を間近で見ることができて感動したものだった。
  (略)
 ちなみに肉食のポトゥリスががどのように交尾するかというと、雌は未交尾のときにだけ、ポトゥリス固有の信号を出し、同種の雄を誘って交尾するのである。そして、交尾がすむと、ポティヌスの信号をまねて、こんどは餌とするポティヌスの雄をおびきよせる。……(p.70~71)


⦅写真は、東京台東区下町民家の、上オダマキ苧環)、下千重咲きの遅咲き椿サムシング・ビューティフル。小川匡夫氏(全日写連)撮影。コンパクトデジカメ使用。⦆