マネキンの妖しさと哀しさ

 テレビ東京の「カンブリア宮殿」という番組は、アンカーの村上龍氏が女優の小池栄子さんとともに、時代の寵児ともいえる経済人を迎えてのトーク・ショーだそうで、先週の10/25(木)は、マネキン業界で、圧倒的な販売シェアを占める吉忠マネキンの吉田忠嗣社長を招いていた。京都に本社のある吉忠マネキンは、創業は呉服業であったが、戦前マネキンのパイオニア企業であった京都の島津マネキンからその技術などを正当に継承して、今日に至ったのであるとのこと。原型師が型をとってから、それをもとに生産する。この現場での映像には感心させられた。まさにアートの工房である。人間のモデルなしに、原型師の想像力で造るらしい。企業活動としては、できあがったマネキンをレンタルで利用させるビジネスが、成功の一つの原因であるとのことである。仮に購入すれば、一体は(作り方にもよるが)120万〜150万円ほどの価格とのこと、驚いた。むろんレンタルといっても個人に貸しているわけではない。デパートなどへ商いの道具として使用させているのだ。
 最後の村上龍氏のコメントも洒落ていて味わい深く、この2週間前の海洋堂宮脇修一社長を迎えたときと2回観たことになるが、どちらも内容が充実していて大いに満足できた。

 http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20121025.html(「カンブリア宮殿」バックナンバー)


 マネキン研究家の藤井秀雪氏が、かつて雑誌『太陽』(平凡社)の「人形愛特集」(1999年8月号)掲載エッセイで書いている。
……マネキン作家の情熱と職人のこだわりから生まれ、すべて手仕事で作られる点から工芸品と言っても過言ではないのだが、他の人形のように、愛の対象として長く人のもとに置かれることは稀だ。これはマネキンが商業活動の道具であるからだろう。……(藤井秀雪「マネキンの光と陰」同誌pp.94〜95)

 ところが、わが書斎にはマネキン一体が堂々と場を占めている。10年くらい前のこと、ある縁で廃棄処分となりかけたマネキンを引き取ったのである。それが「長く人のもとに置かれ」ているということになる。なかなかの美形である。名古屋グランパスのサポータージャンパーとデニムのショーパンという装いである。某女子大生が買ってくれたパンストは、少し破れが出てきている。
 藤井氏が同エッセイで指摘する、「人工的な光を好む一方で、直射日光を嫌う」マネキンの「闇の中に浮かび上がるその妖艶さ」を映像のなかで思い起こすと、カレン・アーサー(KAREN ARTHUR)監督、ダイアン・レイン(DIANE LANE)主演の映画『愛は危険な香り(LADY BEWARE)1987年日本公開』のマネキン群であろうか。ダイアン・レインが演じるウインドー・ドレッサー(ウインドー・ディスプレーのデザイナー)に、一人のストーカーが執拗につきまとい、また大胆にも女の空き巣にも入る物語。男はしかし、主人公の女の策略に落ちて破滅する、まさに「LADY BEWARE」の警告のメッセージをもっていた。キャンディ・プラッツのディスプレーではマネキンたちが妖しく生かされていた。自分の部屋での恋人との情事を忍び込んだストーカー男に盗み見されるヒロイン役のダイアン・レインの、健康的で豊満な肢体と対照的であった。