現代詩:太田浩「秋・10月」

秋・10月                      太田浩


草むらを行けば
草の実がついてくる
細い木立の群を透けて
藍の空
灰の雲がちぎれてうごく
もう十月も終りにちかく
日曜日の小径を
ながい髪をなびかせて
おんながくる
木立のなかの赤い屋根
閉ざされた窓
葉はチリヂリに白壁をきらめかせ
あああれはピサロだったな
ひさしくお目にかからなかったな
その日
いちめんの黄金の公孫樹を仰ぎ踏んだとき
異国の町をあるいているような
夢幻の体験に襲われた
あの音楽のような悲哀は
どこからやってきたのだろう
その日はじめて
わたしは気づいたのだ
いつのまにこころのなかに住んでいたあのひとが
さながらポントワーズの風景のなかからあらわれたように
いまも

             ー『薔薇 8号 1985年january』ー

 

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