タガンカ劇場のリュビーモフ





 タガンカ劇場を創設した劇団主席演出家リュビーモフ演出の舞台を観たのは、1993年3/12の来日公演(東京・銀座セゾン劇場)、『罪と罰』のみである。松岡和子さんがどこかの新聞の演劇評で書いていたように、「ほとんど何もない舞台で光と影が雄弁に劇世界を表現する」演出であった。水を浴びせられたソーニャ(リュボーフィ・セリューチナ)の姿態が印象的であった。松岡和子さんは、同評で『視覚的イメージの連鎖によって、いくつもの時空から主人公の心象までを多層的に描き、主人公の「犯罪権利」思想への批判と、宗教性を強く打ち出している』と結んでいる。
 同来日公演では、『ボリス・ゴドゥノフ』も上演されているが、観なかった。『ロシア演劇の世界:堀江新二研究室』に紹介されている「ロシア演劇研究家岩田貴さんのロシア演劇ベスト10」には、タガンカ劇場の『ボリス・ゴドゥノフ』が選ばれている。観ておけばよかったか。
 http://www.lang.osaka-u.ac.jp/~horie/drama.html(「ロシア演劇の世界:堀江新二研究室」)
 公演パンフレットに中本信幸氏が、タガンカ劇場について寄稿している。
……タガンカ劇場のロビーの壁面には、スタニスラフスキー、ワフタンゴフ、メイエルホリド、ブレヒトの肖像がかかっている。ロシア、ソビエト、世界の最先端の演劇人たちの理論と実践を総合し、創造的に発展させようとするところにリュビーモフの演出の特徴がある。
 タガンカ劇場の看板俳優ヴィソツキーも今はいない。ソ連崩壊によって、七〇年余のソビエト芸術を全面的に否定する声が多くなっている。創立三〇年を迎えようとするタガンカ劇場は、混迷のロシアに輝く一筋の光である。……(p.21)


⦅「ユーリー・リュビーモフ演出『シャラーシュカ(特殊収容所)』タガンカ劇場」⦆