海外ドラマの字幕・吹替えについて(NBC制作『GRIMM╱グリム』)

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 Huluでいよいよトルコ発の大河ドラマ『新・オスマン帝国外伝 影の女帝キョセム』の配信が始まった。チャンネル銀河での放送は知っていたが、深夜の放送で、12時30分までには必ず就寝を守るべき日課としているのでスルーしていた。むろん面倒くさい録画用機器なんぞも置いていない。『オスマン帝国外伝』にハマっていた者としては、配信はありがたい。17代皇帝アフメト1世の側女(そばめ)アナスタシア(小娘役アナスタシア・ツィリビウ)が17話でついに皇帝のお気に入り側女キョセムになって、女優もベレン・サートに交代。現代トルコを代表する女優の一人だそうで、前作に比べて後宮の女性陣に美人が見られず、トルコのドラマ・映画の世界での人材払底かと心配したが、ベレン・サートは気品と断固たる決意を漂わせ、それでいて瞳に憂いを湛えた中東系らしい美人女優、瞬殺された。トルコ語のほか英語、スペイン語に堪能だとのこと。
オスマン帝国外伝』では、「オットマニアな主婦のブログ」が、たまにこちらもコメントを載せてもらっていたが大いに参考になった。「オットマニアな主婦」さんは、トルコ語(英語も)に精通していてトルコ語でまず番組を観ている。海外ドラマを観て、かつそれに特化したブログを設け批評しようとするならとうぜんの資格要件であろう。 

ottomania.hatenablog.com

ちなみにオットマニアさん達の心配は「字幕翻訳」が銀河と同じかどうかってことです。

(銀河さんの字幕、本当に秀逸でした。あまり色々書くとたのしみがなくなるので書きませんが)

前作の時は一緒だったような気もするんですけど・・・。見比べてないからわからない。

 ダークファンタジー『GRIMM╱グリム』でも、吹替え・字幕はこれでいいのか、と思う場合もあった。なにせ英語力が貧しいので、英語字幕をメモし、辞書を引き、最も信頼できる翻訳サイト「Deepl翻訳」で確かめた。シーズン4の22のエピソードで、一味に引き込んだジュリエットの卑劣な騙しメールでニック最愛の母を誘(おび)き出し斬首殺害した王家の冷酷なリーダー、ケネス王子を同僚とともに逮捕してどこか街外れの工場跡地のようなところに連れ出し、ニックは刑事としてではなく、必殺仕事人の闇仕事のようなかたちのタイマンで復讐し殺すのだが、その時のセリフが気になった。 
ケネス:I'd alwas heard how badass(✼攻撃的な、手に負えない)you Grimms were, but your mother was a complete  letdown(✼失望、幻滅). Of course, I did have the element of surprise(✼不意打ち、奇襲)on my side. (テキトーな拙訳:あんたらグリムは手強いと散々聞かされてきたが、あんたのおっかさんにはまったく幻滅。もちろん自分らが奇襲をかけたにしてもさ。)
ニック:How'd you get Juliette to help?(✼get to 口語で「影響を与える」テキトーな拙訳:ジュリエットを手助けさせるのにどう説得した?)

 ところが、配信の吹替え・日本語字幕とも「ジュリエットも加担を?」となっている。警察署でのハンク刑事との議論でも、王家の諜報暗殺組織フェラートの追及を逃れながら闘っている母ケリーは行動に極度に慎重で、所在地が発覚しないようメール送受信にも最大の配慮をしていたから、決まった(ニックの)PC以外からのメール受信はありえない、ニック宅のPCに使用のマウスが移動していてこのPCを使った形跡がある、パスワードとアドレスを知っているのはニックとジュリエットしかいない、という状況証拠から、母ケリーの誘(おび)き出し作業はジュリエット以外はあり得ない。しかもジュリエットはニックの(事実婚上の)恋人ということでケリーから可愛がられ信頼されていた。


ジュリエットは、母ケリーとニック以外でただ一人メール送受信が許可されていた。M=ママ(母)

 

 母ケリー誘(おび)き出しの、闇落ちしたジュリエットのメール。

デスクのPC(わが家と同じMacだ!)用マウスが移動していることにニックは気づく。

わが家のMac用マウス
   ニックはポートランド南警察署殺人課の有能な刑事のはずである。いくら私事に関してでも「ジュリエットも加担を?」などという甘っちょろい質問をケネスに言うだろうか。「加担」の事実を前提に、ジュリエットがどう説得されたかと訊いたのは、いつも鈍感なニックは闇落ちしたジュリエットの露わになった魔性に気がついていないか、あるいは天使のような彼女は騙されて犯罪に「加担」してしまったのではと、信じたかったのだろうか。ケネスの返答は、ニックをおちょくって辛辣である。

ケネス:She didn't take(✼必要とする)that much convincing(✼説得).One good romp(✼不倫のセックス) in your bed. Well, let's just say her needs weren't being met(✼meet 要求を満たす).(吹替え・字幕とも前半は「自発的にだ」かんたんでこれはよい。テキトーな拙訳:そんなに説得なんか必要なかったぜ。彼女進んで加わったんだよ。ご褒美にさ、だいぶ欲求不満だったようだから、あんたらのベッドでナイスな不倫のセックスしてやったよ(笑)。)

 シーズン5以降、ジュリエットの罪を母ケリーの信頼と愛情を利用した誘き出しによる殺人に限ってわずかばかり取り上げるようだが、ケリーはグリムでヴェッセン退治の戦士、ケネス王子もヴェッセン(魔物)諜報・暗殺集団フェラートを率いるリーダー、つまり戦士対戦士の闘いであるから、道義的にはともかく殺人はあっただろう。むしろ問題とすべきは、ケリーが来訪したときのニック宅急襲のため、監視の向かいの家、そして隣接する2軒、この3軒の家の間取りと家族構成をPC画面で詳細について情報を提供・説明したのが、ジュリエット。この情報に基づき、監視、待機集合の拠点、および警察通報のリスク回避のため、フェラートは退職老夫婦を含む3軒の住民を惨殺しているのである。こちらの犯罪のほうがその罪責重大である。ジュリエットは、近隣住民殺戮までは承認・想定してはいなかったのではないかと同情することもできるが、暗黙の承認をしていたことは間違いない。「眠れる森の美女」のアダリンドの呪法と薬剤で眠らされたジュリエットは、レナード警部の必死の探求によるくちづけで目が醒めるが、二人は激しく欲情しあう。なりゆきの頂点ではジュリエットが仕事先のレナードを電話で呼び出し、自宅で狂ったように接吻し、ジュリエットはレナードのシャツを強い力で引き裂き求めようとするが、レナードは理性の抑制でかろうじて止まる。ところが欲情を抑え切れないジュリエットは激怒しピストルを乱射する。この音を聞いた近隣住民の警察への通報で事態が収まったのである。
『GRIMM╱グリム』はダークファンタジーとあると同時にダークサスペンスドラマ。一つ一つの(ヴェッセンによる)犯罪を、ニック刑事と同僚たちがあくまでも市民による犯罪として、つまり法で裁ける限りでの犯罪として追及、無理の場合には正当防衛で射殺して解決するところに面白さと魅力があった。ところが、この事件では母親殺害にばかり目がいって、近隣住民殺害についてまったく刑事として動いていない。あくまでもジュリエットを「愛されキャラ」として引っ張っていきたい(制作側の)思惑が窺える。おそらくこの時の近隣住民だれかへの恨みが潜在していたのだろう。なぜなら、ヘクセンビーストになってアダリンドを殺そうとし、さらにロザリーのスパイスの店(薬剤店)で魔女の「抑止薬」を勧められて激昂、店をメチャメチャにした上、ピストルを向けて阻止しようとしたニックのピストルを、ヘクセンビーストの呪法の力でロザリーの夫モンローに向けて発射させたことがあったから。間一髪ハンク刑事の飛び込みでモンローは助かった。レナードとジュリエットの激しい接吻を目撃し、ニックに告げ口したのがモンローであった。この時のモンローの顔にジュリエットへの軽蔑を読んだのかもしれない。つまりジュリエットには恨みを底にした殺戮の承認があったといえよう。何しろ残虐な暗殺のプロ集団の仕事である。近隣の情報を元にどう行動するのか、グリムである刑事の恋人ジュリエットが想像できないはずはない。
 シーズン5までは22話ずつあったのが、シーズン6(ファイナルシーズン)は13話で完結。この世界の支配を狙うラスボス髑髏と、ニックとトラブル、そして大昔の『仮面ライダー』のように善悪の世界支配をめぐって原っぱのような広場で、亡霊の母ケリーと叔母のマリーら「グリムの血」が参加して闘い、ついに倒して髑髏登場の前に世界の時間が戻り大団円。ただし髑髏の呪法によって、自己処罰のようにみずからナイフを腹に突き刺したジュリエットはそのまま死去。あと完成品の魔法の杖が残り、アダリンドのザウバービースト・ボナパルトによって嵌め込まれた外せない(レナード警部との)婚約指輪は外されていた。「ジュリエット!」とニックに看取られた元カノのジュリエットは、微笑みつつ「No regrets(✼後悔).」と言って息を引き取ったが、髑髏をニックたちが倒して時間が戻っても、ヘクセンビースト戦士に戻ったイヴのなかにはイヴがアイデンティティとして示していた「I was scared (✼受身形で恐る、怖がる) and angry and I did a lot of terrible things. Thing I can never forgive Juliett for. But I'm not Juliett, Nick. She's gone.」の通り、もはや(Magic Stickの力でいっとき感情を取り戻していた)ジュリエットも完全に消えていたのだ。だからいまの恋人アダリンドと熱いキスを交わしてからすぐにイヴのところに行き、何が起こったのかニックと(ヘクセンビーストとザウバービーストの間の子)超能力の幼女ダイアナ以外は知らない、仲間の驚くなか一人の戦友としてハグしたのである。20年後新しいトレーラーの中でグリムとしての記録を書いているケリーの語りにおいて、パパ(ニック)&ママ(アダリンド)、モンロー&ロザリーの三つ子、トラブルについて触れられても、世界のどこかでまだ凶悪ヴェッセンと政府秘密組織のメンバーとして孤独に闘っているだろう、イヴのことは一言も語られていないのである。
 なお余計なことを付け加えれば、無時間性の異界でラスボス髑髏を「グリムの血」の団結で倒してすぐ、亡霊の母ケリーがニックに「孫の名前をケリーとしたんだって、いい名だ」と言い残して消えたが、自分と同じ名前ケリーと名付けてくれたアダリンドを「よいパートナーね、今度こそ二人で幸せに」と祝福した〈遺言〉だったのである。

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