ひとをめぐる状況と関係性は無常であること:『GRIMM╱グリム』の怖さ

 

 Hulu配信の米国ドラマ『GRIMM╱グリム』全6シーズン123話にハマってしまい、スマホの内蔵電池が寿命となってもauショップに行かず放置してしまったほど。大作ドラマ『オスマン帝国外伝』、『GOT(ゲーム・オブ・スローンズ)』に匹敵する面白さで、このところ本も読まずにイッキ見してしまった。
 オレゴン州ポートランドを主要舞台に、刑事ではあるがじつは魔物(ヴェッセン)退治の超能力を代々継承してきたグリムである主人公のニック・ブルクハルトが、ヴェッセンたちの起こす事件を同僚刑事とともに解決する物語と並行して、ヴェッセンを操り世界支配を企むウィーンの王家、それと闘うレジスタンス、そしてヴェッセンによる世界征服を企てる黒き鉤爪(シュヴァルツクラーラ)とそれを阻止しようとする政府の秘密組織HW(ハドリアヌスの長城)などが闇の世界に次々に登場、グリム=ニックらはレジスタンス&HWと連携しつつ悪の組織と激しい戦闘を繰り返す。ニックは黒き鉤爪を魔女(ヘクセンビースト)の娘の力にも助けられてボスとともに倒すも、ファイナルシーズンでは鏡の向こうの世界の支配者最強の骸骨と死闘。亡くなった母・叔母のグリムの亡霊とも力を合わせ最終的に勝利し、骸骨出現直前の世界に戻して大団円。

 

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   さて、ヴェッセンの怖さは卓越した特殊メークの技術もあり迫真的であるが、ここでは、ひとをめぐる状況と関係性の変化こそ怖いということをたしかめようか。魔女(ヘクセンビースト)で弁護士のアダリンド・シェイド(クレア・コフィー)は、はじめは王家傍流(母はヘクセンビースト)でその時どきの権力の威圧に屈服して、悪玉になったり善玉になったりして行動するレナード警部(サッシャ・ロイズ)に従って動き、その後王家の本流側で動く。王家の指示によりニック(デヴィッド・ジェントーリ)のグリムとしての超能力を奪うべく、呪法でニックの(事実婚上の)恋人ジュリエット・シルバートン(エリザベス・トゥロック)に変身し、昼間からニックをネグリジェ姿でベッドに誘い込み抱き合うことになる。この物語の核となる出来事。ニックはグリムでなくなってしまう。その前には、アダリンドは、獣医であるジュリエットの手を(毒を仕込んだ)猫に噛ませ、ジュリエットを眠らせてしまう。ニックの上司であるレナード警部は、彼女を目覚めさせるには、魂を浄化された人物のキスが必要と知り、隠れて薬で自らを浄化し病床で眠るジュリエットに接吻、ジュリエットを救う。ところが、この薬はキスした者同士が恋し合うという思わぬ効果をもたらし、ジュリエットとレナード警部はニックに隠れて密会、あるとき二人は着ているものを脱ぎ捨て、激しく求め合うが、レナードが最後のところで抑制し、ジュリエットはだらしないと平手打ちで叱責する。あとで何とかこの〈恋〉は治療されるのだが。知性的で品のあるジュリエットの激烈な衝動にすでに驚かされているのである。
 ニックは、グリムの能力を失ってどこかほかの町へ移って快癒したジュリエットと平穏に暮らす選択肢もあったのだが、ヴェッセンの凶暴がひどくなってきて、グリムとして闘い続ける道を選ぶ。このときは味方のレナードがアダリンドの母の遺品の中から呪法の本を見つけ、薬剤師でフクスバウ(キツネ型ヴェッセン)のロザリー(ブリー・ターナー)に渡し、この呪法でグリムの能力を取り戻すことになる。それは、ジュリエットが呪法でアダリンドに変身、ニックと抱き合うということ。成功しニックは再びグリムになった。しかしここでもジュリエットはひどい副作用に襲われる。何日か経ってジュリエットは魔女(ヘクセンビースト)になってしまったのだ。真相を知ったニックを前にして変身(ヴォーガ)して「これでも私にキスできる?」と詰め寄ると、ニックは何もできず呆然と立ち尽くすのみ。
 ジュリエットはニックに真相を告げる前に、母がヘクセンビーストであるレナードのところを訪問し、ヴォーガして絶望を知ってもらっていた。2度目に訪れたときは、突然下着姿となって「この前の続きをしましょう」とレナードに迫り、二人は一夜を共にするのだった。その後、ジュリエットは街の居酒屋で寄って来た男を魔女の力で飛ばして暴行、グリム家代々に残されたヴェッセン関連の夥しい書物群と撃退の武器の所蔵されている秘密のトレーラーに火を放って焼却したり、やりたい放題。入れられた留置場で励ますニック刑事に「こんな力を失うなら人間に戻らなくていい」と言い放ち、ヘクセンビーストのジュリエットは保釈金を出してくれた王家の下で闇の仕事をすることを選ぶのだった。密かに診てもらった呪術師の魔女から「あなたはもはや人間に戻れない」と告げられていたのだ。王家の若い極悪のリーダーとニックの部屋のベッドでジュリエットが被さるように抱き合い、その男の求めに応じてニックの母(グリム)を騙して呼び出し首を刎ねて殺害することに加担してしまう。母がニックの恋人ジュリエットを深く信頼していたからこその惨劇であった。
 事件を知ったニックは、もはやジュリエット殺害も躊躇しなかった。ところがジュリエットのほうが刺客としてニックの家を襲い、ニックがジュリエットの首を絞めて殺すのを躊躇った瞬間、「殺せばよかったのに」と言ってジュリエットはヴォーガ、ニックを魔女の力で倒し殺しかけたとき、あるときからニックの妹分のグリムとなった、トラブル(ジャクリーン・トボーニ)が「ジュリエットさようなら」と放った矢がジュリエットの胸を突き刺し、ジュリエットは息絶える。
 ところが政府の秘密組織HWのメンバーが来襲して、トラブルも遺体のジュリエットも運ばれてしまう。ある時間をおいて、HWは、ニックに彼と仲間たちの絶体絶命の危機を救った、死んだはずのジュリエットと会わせる。ジュリエットは黒き鈎爪と闘うヘクセンビースト戦士=イブとして蘇生されていて、情動・欲望の中枢が脳の手術で変えられていたのだった。トラブルもグリムの戦士としてそこで働いていた。
 一方アダリンドは、ジュリエットに変身してニックと交わったことで妊娠してしまっていた。子供をどうしても産み守りたい一心から薬である期間人間になり、ニックの仲間になることを認めてもらった。はじめは違和感もあり距離を置いていたニックも、新しい要塞のような居宅でアダリンドを匿ううちに次第に惹かれ合い、子供が無事生まれるとついに二人は事実婚の関係になるという展開。最愛の恋人が、殺されるまで敵側の最強の魔女となり、主人公の母殺害の手引きをし、敵側の魔女が、思わぬことから主人公のグリムとの間に子供を儲け、ある期間ふつうの人間となり魔女に戻っても悪と闘う仲間となり、主人公との事実婚の関係となる、というのがこのドラマの最も怖いところなのである。アダリンドはいっ時黒き鈎爪に、傀儡の市長となるための選挙に出馬するレナードのよき家族(レナードとアダリンドの間にはすでに長女が生まれていた)を演じるよう脅迫され、ニックの下を去るのだが、二人の愛を奪うことはできなかった。

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