よい席ですね!その距離なら演出はもちろん、フランス語の響きもたっぷり堪能していただけることでしょう。お楽しみに~✴
— Miho Morioka 森岡実穂 (@MoriokaM) 2022年5月21日
こちらのお気楽なtweetに温かい返答をいただいた森岡実穂中央大学経済学部准教授の専門は、19世紀イギリス小説とオペラ表象分析、それにジェンダー批評で、千葉県立船橋高校→東京大学文学部→東京大学大学院英米文学専修博士課程→ノッティンガム大学修士課程修了、という学歴&研究歴とのこと。わが地元の県立船橋高校出身と知り親しみが湧いた次第。さっそくAmazon経由でご著書の『オペラハウスから世界を見る』(中央大学出版部 2013年3月初版)を購入、『ペレアスとメリザンド』とコンヴィチュニー演出の『エレクトラ』などのところを読んでみた。ヨーロッパでの政治的メッセージ性の強い、作品の独自解釈と新演出について論じ紹介している。戦争については、今日のロシアによるウクライナ侵攻という事態を知らず、また違ったメッセージになるかも知れない。「特に日本における東日本大震災、および原子力発電所事故の問題については、今後数年ではっきりとこれに関する批評的見解とその表象が、いくつもの作品の新演出に織り込まれていくことだろう」と展望している。反近代(資本主義)、反原発の思潮の到来を予測しているのだろうが、今は世界的に原発の必要性が再認識されつつあり、政治的メッセージ性の充満した舞台はどうか。そして昨今の手紙の代わりにスマホを使ったり(『椿姫』とか)、ライブ会場で歌ったり(『カルメン』とか)の新演出も、昔演劇の『桜の園』で、木を切り倒すのに斧ではなくチェンソーを使用させたりなどあった、それほど〈新〉でもなく、ただの〈目くらまし〉ではないかとの観客の側の疑問と不満も生まれるのである。昨年8月に観劇したカロリーネ・グルーバー演出の『ルル』などは、ジェンダー論的メッセージの舞台であった。欧米の演劇・オペラは今後この方向が主流になるのだろうか。
第3章の題材は、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》、ショスタコーヴィッチ《ムチェンスク郡のマクベス夫人》である。この20世紀の名作オペラ2作品については、女性の精神的・身分的な「監禁」の物語として、新しい読みによる演出が次々と生み出されつつある。《ペレアスとメリザンド》におけるドメスティック・バイオレンスに着目したヨッシ・ヴィーラーとセルジオ・モラビト、スタニスラス・ノルデの演出、個性的な舞台装置をフルに利用して、《マクベス夫人》の主人公カテリーナが置かれた閉塞状況を徹底的に描き出したジョーンズ、マルティン・クシェイ、セルゲイ・チェルニャコフらの演出を紹介する。(「はじめに」)
ここで挙げられているヨッシ・ヴィーラー演出の日本での演劇の舞台は観ている。2005年8月、両国のシアター X(カイ)にて、南北作『東海道四谷怪談』。地下鉄の駅ホームを現場とした幻想的で斬新な舞台であった。
演目『エレクトラ』の演出で紹介しているペーター・コンヴィチュニーの演出のオペラ作品では、2008年9月上野の東京文化会館大ホールにて、東京二期会のオペラ公演、アレクサンドル・アニシモフ指揮の『エフゲニー・オネーギン』を、2011年2月に、東京文化会館大ホールにて、東京二期会オペラ公演、シュテファン・ゾルテス指揮の『サロメ』をそれぞれ観劇している。『サロメ』は巨大な核シェルターを出来事の現場とした演出であったが、意外と印象は薄かった記憶がある。