聾唖者俳優によるウクライナ映画『THE TRIBE(ザ・トライブ)』(2014年製作)

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 聾唖者俳優によるウクライナ映画、ミロスラブ・スラボシュピツキー監督の『THE TRIBE(ザ・トライブ)』(輸入盤DVD)を観た。出演俳優はすべて聾唖者で、全編手話(ウクライナ語&ロシア語)でコミュニケーションが進行、その分ノイズのように挿入される物理的な音が不気味なリアリティを感じさせる。妊娠中絶手術の悲痛の極限では、アナ(ヤナ・ノヴィコヴァ)の絞り出す意味のない声が胸に迫る。
 物語は、寄宿制聾唖学校での生徒の闇の組織TRIBE(族)内で生じた金銭収奪・決闘・売春・窃盗・殺人そして、主人公セルゲイ(グレゴリー・フェセンコ)がボスの愛人アナに恋してしまったことから起こったリンチと、その復讐のためのボスほか幹部の強殺に至る展開。どのシーンも残酷で目を覆いたくなるが、展望のもてない未来は見ず、いま金と力を手にすること、それのみに集中してそれこそ黙々と行動する群像に衝撃を受ける。売春で金を稼いでいた女子生徒二人がイタリア行きの(正規の)パスポートを作るのに成功するが、(説明のナレーション・英語字幕など入らないので)そこのところがよくわからない。ボスらに貢ぐ為もあり、イタリアで売春して来ようとしたのか、不明である。アナはほとんど(少し恋心はあっても)金を払わせてセルゲイに体を許しているだけなのに、セルゲイは工作担当の教師を殺したり、列車のアルバイトに紛れて客の財布を奪ったりしてまでも金を工面して、初恋のアナを求め抱く。ついにはアナのパスポートを奪って破り捨ててしまう。これが原因でボスたちから凄惨なリンチを受けるのである。
 セルゲイが就寝中のトライブの幹部ら4人を次々に整理棚で頭部を潰して殺すが、彼らは(むろんセルゲイも)音が聞こえないので誰にも気づかれなかったのである。恐ろしさの中に哀しみが漂っていた。例えば強奪事件や殺人事件が起こされていても、地元警察が捜査に学校を訪れるという場面は一切ない。つまり、この映画は冷酷にドキュメンタリー風に撮られていて、じつは怒りと悲鳴と哀しみの映像詩なのであった。

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この車で女子生徒二人と交渉役のセルゲイらは、売春のため大型運送トラックの大駐車場まで運んでもらう。

お金を払う条件でアナはセルゲイに体を許す。セルゲイはほんとうに好きになってしまう。

アナは友に妊娠したことを告げ中絶する決意を語る。友は激しく反対し説得する。

専門医でもなさそうな婆さんによる、麻酔も使用しない中絶手術。しかし成功。

その後もセルゲイは人からお金を奪ってアナと抱擁する。