ダニエル・シュミット監督『ラ・パロマ』はシネ・ヴィヴァン六本木で観ている

 屈指の映画通といえる在野批評家ミスターさんが観ていない映画作品を、こちらが観ているというのは、愉快である。ダニエル・シュミット監督作品中の1作品のみであるが、昔(1984年12月)シネ・ヴィヴァン六本木で観ている。『パラジャーノフ祭』とか、パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟監督の『カオス・シチリア物語』とか、いまは閉館しているこのミニシアターで観た映画のプログラムには、いつも蓮實重彦氏の解説あるいは対談が掲載されている。『ラ・パロマ』は、じつはあまり記憶に残っていない映画なのであるが、プログラム誌上の故武満徹氏との対談での次の発言が面白い。

蓮實:そのぜいたくさが、所有欲につながらないところが彼の才能だと思います。実際の撮影は、いつも予算が足りずに貧しいものだったそうです。
武満:しかし、出来上がったものは、かなりぜいたくな映画ですよね。それから、いくつかの素晴らしいショットの中で、ときどき、これどっかで見たようなショットだなっていうのがありますね。
蓮實:人物の配置でもどっかで見たっていうのが沢山ありますね。ドイツやアメリカの30年代のメロドラマの中に、女が背後の男にちょっともたれかかるというラブシーンがたくさん(✼ママ)ありますが、あの姿勢をずい分盗んでるねって彼に言ったんです。『ラ・パロマ』の山上のデュエットのシーン、それから、『天使の影』のファスビンダーとカーフェンのシーン、『ヘカテ』にも同じ配置のシーンがありますね。その三つの写真を僕の映画の本(『映画  誘惑のエクリチュール』)の中で並べて載せて、彼に見せたら、「いい所を見てくれた」って喜んでましたけれど。
武満:シュミットの映画を観ていますと、よく映画を観てるなあっていうことには感心させられますね。
蓮實:どこに盗みに入ったらいいのか、宝石のありかは全部知っているわけです。

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 いわば映画における本歌取であろうから、シュミットの作品を深く味わえるには、先行する多くの映画作品を観ていなければならないわけで、個人的には無理な注文である。
ラ・パロマ』のプログラムじたいぜいたくに造られていて、「シナリオ採録」では見開き左ページにシナリオを、右ページに3葉の各ショットの美しい写真を掲載している。

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