ダニエル・シュミット。見たことないので、さぞ面白いんだろうと思いながら蓮實先生の文章を読んでいる田舎者です。
— ミスター (@hahaha8201) 2021年10月19日
屈指の映画通といえる在野批評家ミスターさんが観ていない映画作品を、こちらが観ているというのは、愉快である。ダニエル・シュミット監督作品中の1作品のみであるが、昔(1984年12月)シネ・ヴィヴァン六本木で観ている。『パラジャーノフ祭』とか、パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟監督の『カオス・シチリア物語』とか、いまは閉館しているこのミニシアターで観た映画のプログラムには、いつも蓮實重彦氏の解説あるいは対談が掲載されている。『ラ・パロマ』は、じつはあまり記憶に残っていない映画なのであるが、プログラム誌上の故武満徹氏との対談での次の発言が面白い。
蓮實:そのぜいたくさが、所有欲につながらないところが彼の才能だと思います。実際の撮影は、いつも予算が足りずに貧しいものだったそうです。
武満:しかし、出来上がったものは、かなりぜいたくな映画ですよねえ。それから、いくつかの素晴らしいショットの中で、ときどき、これどっかで見たようなショットだなっていうのがありますね。
蓮實:人物の配置でもどっかで見たっていうのが沢山ありますね。ドイツやアメリカの30年代のメロドラマの中に、女が背後の男にちょっともたれかかるというラブシーンがたくさん(✼ママ)ありますが、あの姿勢をずい分盗んでるねって彼に言ったんです。『ラ・パロマ』の山上のデュエットのシーン、それから、『天使の影』のファスビンダーとカーフェンのシーン、『ヘカテ』にも同じ配置のシーンがありますね。その三つの写真を僕の映画の本(『映画 誘惑のエクリチュール』)の中で並べて載せて、彼に見せたら、「いい所を見てくれた」って喜んでましたけれど。
武満:シュミットの映画を観ていますと、よく映画を観てるなあっていうことには感心させられますね。
蓮實:どこに盗みに入ったらいいのか、宝石のありかは全部知っているわけです。
いわば映画における本歌取であろうから、シュミットの作品を深く味わえるには、先行する多くの映画作品を観ていなければならないわけで、個人的には無理な注文である。
『ラ・パロマ』のプログラムじたいぜいたくに造られていて、「シナリオ採録」では見開き左ページにシナリオを、右ページに3葉の各ショットの美しい写真を掲載している。