宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)を読む

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 宇佐見りんの『推し、燃ゆ』(河出書房新社)を読んでいる。アイドルバンドの上野真幸を推しとするJKのあかりの、推しなしでは人生が成立しない生活をテンポよく描いていて、まるで性能のよいドローンを絶えず飛ばし、みずからを中心にして、学校やバイト先で関わる人びとの行動を感覚的に無駄なくかつ批評的に眺めているようである。自分の部屋の様子は、

 新曲が出るたびに、オタクがいわゆる「祭壇」と呼ぶ棚にCDを飾る。部屋は脱ぎ散らかした服と、いつから放ってあるのだかわからない中身の入ったペットボトルと、開かれたままうつぶせになった教科書や挟まったプリントやらで乱れきっているけど、青碧色のカーテンと瑠璃色のガラスでできたランプのおかげで入ってくる光と風はいつも青く色づいていた。アイドルにはだいたいメンバーカラーというのがあって、それはたとえば会場で応援するときのペンライトの色だったり、各メンバーのグッズの色に使われたりする。推しは青だから身の回りを徹底的に青く染め上げた。青い空間に浸るだけで安心できた。(p.36〜37)

「開かれたままうつぶせになった教科書」という描写表現は卓抜。これだけで、あかりの学校との関わり方が直ちに諒解される。
 推しがあかりにとって人生のすべてであることは、次のところでも納得できる。あかりは、事件を起こしても中止にならなかった推しのライブの日にバイト先に出勤しようとしていて、そばにいる姉に、学校に呼ばれていることを咎められている。

……水色のレースハンカチと藍色の縁の眼鏡を鞄につめ込み、最後に十二星座の占いを見る。推しは獅子座だから四位、ラッキーアイテムボールペンね、とペン本体より重そうな推しのラバーストラップのぶらさがったボールペンを鞄の内ポケットに差し込み、自分の星座は見ないまま出発した。興味がなかった。(p.44)

 眼鏡、鞄など漢字を使い、カタカナ言葉(文字)とのバランスにもさり気なく配慮している。みごと。半分まで読んだところ、さてどう続くのか。