どう混雑が緩和されようと、あまり京都を旅する意欲が湧いてこないこの頃である。
秋元松代の戯曲『常陸坊海尊』(河出書房新社)の終幕(第三幕)に出てくる観光客の一群を思い起こした。なおこの舞台は、1968年11月俳優座劇場にて、俳優座公演、高山図南雄演出、南田洋子客演で観ている。
女ガイド:みなさん、こちらへ——。木の根につまずかないように気をつけましょう。
秀光(※宮司補の青年):……ここは奥庭です。当社は平泉の中尊寺とほぼ同時代に建てられたものです。従って神社建築の様式においても、仙台以北ではもっとも重要な文化財として指定されております。——文治元年、1190年頃ですが、衣川の合戦に敗れた源義経は、あの岬から蝦夷地へ渡ったという伝説が残っております。——なお、御本殿と奥の院には重美に指定された彫刻、古文書、土器などがあります。ご希望の方は御参観下さい。
女ガイド:(暗唱したまま機械的に)みなさま、東京をあとにして、はや五日。ここは本州さいはての地でございます。明日は一路なつかしの東京へ——。みちのくの旅の最後の日を、あるいは傷心の英雄義経を偲んで歴史を回顧し、あるいは心ゆくばかり風景を観賞して、しみじみとした旅情にひたろうではありませんか。
観光客たちは聞いているのかどうかも分からないような無表情、無反応で、
ぼそぼそ小声で話し合ったり、トランジスタ・ラジオをきいたりしている。