タヴィアーニ兄弟監督作品『カオス・シチリア物語』は傑作

 伊映画監督タヴィアーニ兄弟のヴィットリオ氏死去 『父/パードレ・パドローネ』 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
 タヴィアーニ兄弟監督作品『カオス・シチリア物語』は、昔シネ・ヴィヴァン六本木で観ている。まるで夢を見ていたような、たしか映画館を出る時の感想であった。ぜひまた観てみたい映画の一つである。
 「カオス・シチリア物語」 : 寄り道カフェ

 タヴィアーニ兄弟の映画『カオスーシチリア物語』を観て思ったことは、あ、これはオペラだなということだった。とりわけプロローグとエピローグとにはさまれた四つの物語のそれぞれが、上等のひと幕ものオペラのようだった。第二話「月の病い」で、バタが満月に魅入られたり、第三話「甕(かめ)」で甕がひとりでに割れたり、といった、現実にありそうもないできごとが、けっして不自然でなく物語のなかにおさまってしまうのは、オペラの世界の特徴だが、それだけでなく、せりふや筋が語ることよりもっと遠くまで、映像や音楽がひろがっていって、そのひろがった先にそれぞれの物語の外縁がある、といった語りくちそのものが、オペラを思わせるのだろう。(林光「映像のオペラ」プログラムp.10)

 たしかイタリアには眠りの神ソムノスの息子にモルペウスというのがいた。夢の神である。眠りは夢を生み出すからだ。十九世紀の初め、ドイツの化学者がある薬を発明した。そいつを注射すると「モルペウスさまのお出まし」のようなここちがするのでモルヒネと名づけられた。今の私がまさしくそうである。強烈なモルヒネをくらったぐあいだ。首に鈴をつけ黙示を伝える使者のように飛び立ったカラスが、今なお目の底にちらついている。(池内紀「原料の混沌」プログラムp.9)