吉村睦人歌集『吹雪く尾根』から一首


 秦恒平氏の『湖(うみ)の本・エッセイ40:愛、はるかに照せ』は、「愛の、詞華集」であり、もともとは原題『愛と友情の歌 詩歌日本の抒情』(講談社)として1985年上梓されたものとのことである。
 まず「男女の愛」の歌が、本篇「愛の歌」の「番外の序篇」として紹介されている。先達の導きのままに時おり「口遊んで」読み進めると、吉村睦人さんの歌に遭遇した。再会したといってもよいかも知れない。
…… 
 割烹着の裾よりスカート少し見えいよいよ君をいとしと思ふ
 発見の歌であり、しかも誰もが分かる納得できる意味では共感の歌であり、思いの底にあったものが、いみじくも代弁された喜びをもつ。「割烹着」だけでは、気がつかない。ふだん見ている「スカート」だけの姿でも気づかない。いつもは見なれない働き者の「裾」からいつも見なれて心をひかれてきた「スカート」がちらと見えた。好きな少女の思いがけない好もしい一面が瞬時に結晶した。好きになって行く時は何を見てもこうなのではあるがと、スタンダールの『恋愛論』は教えている。昭和五八年『吹雪く尾根』所収。青春の恋をうたって心晴れやかな歌集である。……( pp.21~22 )

 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120210/1328869963(「歌人吉村睦人」)