俳優仲代達矢

(「東京新聞」2017年元旦)
 元旦の「東京新聞」に、仲代達矢の役者歴65年の偉業について、紹介の記事が載っていた。小林正樹監督『切腹』が映画出演作品として傑出していることは、多くの人が認めるところだろう。


 舞台出演では、福田恆存の、対話性を欠落した歌舞伎風の台詞まわしとの批評が影響して、個人的にあまり観ていない。1982年11月PARCO西武劇場での公演、小田島雄志訳、隆巴演出の『マクベス』を観ているが、むしろ忘れ難いのは、1981年東京池袋・サンシャイン劇場での松竹・仲代プロジェクト公演、マキャベェリ作、隆巴演出・上演台本の『喜劇・マンドラゴラ 毒の華』の舞台である。あの『君主論』のマキャベェリ(マキャヴェッリ)原作の舞台化という、大胆な企画であった。公演パンフレットでも、政治思想史家の佐々木毅氏が寄稿しているのである。物語の展開そのものは記憶していないが、愉しんで劇場をあとにしたかと思う。演劇上演史上の意味があったのではないか。演出の隆巴氏が「演出雑感」という題で述べている。
◆近年ルネッサンスがいろいろと論じられている中で、ルネッサンス華やかな時代のイタリア全土を湧かせたこの作品がほとんど上演されずにいた事は不思議な気がするが、一般的な知名度の薄さや、マキャベェリ即ちマキャベェリストというような誤解と共に、この作品の構成のあまりにあっけらかんとした単純さが、上演をためらわせたのかも知れない。
 通常芝居には、最後にどんでんと言うか、おちと言うか、起承転結の転なり結なりがあるものだが、「マンドラゴラ」にはそれはない。慾望をめぐる人間喜劇で、それぞれの慾望を追って、だまされる人間とだます人間達が右往左往するのだが、最後までだましっ放し、だまされっ放し……美事に単純な構成である。◆
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110725/1311561901(「国家と宗教:2011年7/25 」)