アルレッキーノの仮面(再録)

(「東京新聞」11/25)



 山口昌男氏の道化=トリックスター論には大いに知的刺激を受けている。1979年ミラノ・ピッコラ座が初来日公演(『二人の主人を一度に持つと』)したとき、山口氏は、たしか「日本経済新聞」文化欄で、幕開きの前夜一緒に食事をしたアルレッキーノ(Arlecchino)役者フェルッチョ・ソレーリ氏は、生真面目な日本の観客が笑ってくれるだろうかと、大変心配そうであったが、初日の舞台が全く杞憂であることを明らかにした、と書いていた。そして、日本の観客がたっぷり味わったこととして、チャップリンキートンなどの祖先が、悪戯者アルレッキーノであることと、「仮面が、演技をいかに舞台を超えた遠い地点にまで導いていくかということ」の二点を指摘していた。ミラノ・ピッコラ座の『二人の主人を一度に持つと』の舞台は、1979年3/19(月)に、東京新宿文化センターで観劇している。忘れられない一夜となった。

 わがコレクションの一つに、ヴェネチアの当時知られた仮面職人が作製したアルレッキーノの仮面がある。かつてあった神田のヴェネチア工芸品の店で購入したものである。あらためてこの仮面を眺めながら、文化人類学山口昌男さんのご冥福を祈りたい。(2013年3/13 )