春日井建の歌と愛

(『東京新聞』7/16夕刊「大波小波」)
 春日井建の歌と愛については、わがブログで、永田和宏『現代秀歌』(岩波新書)の紹介をしたところで若干ではあるが触れている。その記事のみ再録したい。

◆ 個々の作品では、まず第1章「恋・愛」の春日井建の歌と解説が面白かった。昔歌集を愛読したからである。
 蒸しタオルにベッドの裸身ふきゆけばわれへの愛の棲む胸かたし
                        春日井建『未青年』
……まだ幼く、不器用な愛の歌と言えようか。愛を交わしたあと、ベッドに横たわっている裸身の汗を拭いてやる。蒸しタオルという具体が奇妙なエロスを演出しているのだろう。しかし、そのエロスはどこか無垢な清潔さに満ちている。「われへの愛の棲む胸かたし」と詠われる少女の胸もまだ幼く、かたいのである。愛を知りはじめた、初めの時期にしかできない愛の歌だ。……(『現代秀歌』pp.18)

「太陽が欲しくて父を怒らせし日よりむなしきものばかり恋ふ」などの危うい愛(同性愛への傾斜)も紹介している。三島由起夫は歌集『未青年』について、「火祭りの輪を抜けきたる青年は霊を吐きしか死顔をもてり」を「その怖ろしい、つきつめた魂の抒情において、集中随一の名歌である」と評している(深夜叢書社版『行け帰ることなく/未青年』書評)。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20150222/1424600421(「永田和宏『現代秀歌』(岩波新書)を読む:2015年2/22」)