荷風の花


         (わが所蔵の『断腸亭日乗』全7巻)
 永井荷風の作品の熱心な読者でもなく、少年時代に家族で歩いて浅草のアリゾナに夕食を食べに行ったくらいしか、この文豪と重なるところはないのであるが、隔月刊文藝誌『雲』(龍書房)1・2月号掲載の、葉山修平連載『小説永井荷風』に、荷風と花との関わりが書かれてあり、興味をもった。
 小説中の荷風傘寿の歳になり、かつて牛込区大久保余丁町の父久一郎(禾原=かげん・來青)の邸宅〈來青閣〉での草花や小動物と親しんだころを回想し、みずからの日記『断腸亭日乗』の当時(大正7年)の記述を追うところ。
……四十歳という年ごろに、どうしてあれほど草花や小動物に親しんできたのか。たぶん〈來青閣〉がそうさせたのだ。いまの彼の陋屋には花ひとつない。まあ、いい。〈來青閣〉は遠い日の夢なのだ。なつかしさに、大正七年の「断腸亭日乗」の草花や小動物を追ってみるのだ。……(p.55)
 読者も追えるように、正月一日から十一月廿日まで、草花と小鳥についての日録を簡潔に並べている。ちなみに本日2/25のところは、「梅花未開飾れど暖気四月の如し。貝母の芽地中より現れ出たり。」この貝母=バイモとは、ユリ科バイモ属の球根植物。花期は、3月〜5月。
 http://www.hana300.com/baimo0.html(「バイモ:季節の花」)
 5/6の日録に、「階前の來青花開く。異香馥郁たり。」とある。随筆「來青花」が青空文庫に載っている。
 http://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/50291_37759.html(「青空文庫『來青花』」)
……園丁これをオガタマの木と呼べどもわれ未いまだオガタマなるものを知らねば、一日座右にありし萩の家先生が辞典を見しに古今集三木の一古語にして実物不詳とあり。然れば園丁の云ふところ亦遽(にはか)に信ずるに足らず。……
 どうやらこれは、モクレン科のオガタマ属のトウオガタマ(カラタネオガタマ)らしい。バナナのような香気だそうで、「異香馥郁たり」との描写にも合致している。
 http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/tatuta/jumoku/kmt99.htm(「トウオガタマ」)
 http://kanon1001.web.fc2.com/foto_sinrin/K_mokuren/karatane_ogatama/karatane_ogatama.htm
  (「カラタネオガタマ」)
 7/28の日録に「秋海棠花ひらく。」とある。この秋海棠(シュウカイドウ)が、荷風散人の愛した花で、別名が断腸花である。
 http://www.geocities.jp/mc7045/sub126.htm(「秋海棠=シュウカイドウ」)
 http://www.teych.com/8ghana-29.html(「シュウカイドウ:魅る魅るガーデニング」)
秋海棠西瓜の色に咲きにけり 芭蕉『東西夜話』(岩波文庫芭蕉俳句集』より) 
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120422/1335081191(『「荷風忌」に寄せて:2012年4/22』)