大正の洋食・平成の回転寿司

 http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20130916-01/1.htm
 (『エンガワは深海魚、カジキはアカマンボウ 回転寿司「ネタバレ品書き」を公開する』:『SAPIO』9月号からniftyニュース)
 谷崎潤一郎の『鮫人(こうじん)』⦅1920(大正9)年発表・未完⦆に、浅草の洋食について記述しているところがある。松葉町で零落の生活を送る青年服部の住居に、支那への長い旅から帰ったばかりの友人の画家南貞助が訪れる。土産の葉巻を吸ってから、服部は、「何か其處いらで誂(あつら)へて來るから」と言って外へ出た。
……一時間ほどしてから、二人の間には洋食の一品料理がズラリと十皿も並んで居た。――読者は多分、淺草辺の貧しいカフェエで食べさせるそれ等の下等な洋食を――洋食ではなくツて或は妖術であるかも知れないそれ等の料理を御存知だらう。 そうして又、讀者のうちの或る人々は、それを食ふのに一種の心得がいることをもご承知だらう。たとへばどんな料理を誂へても、大抵の場合その皿の半分を占めて居るものは、観世縒(くわんぜより)のやうに細く刻まれたキャベツである。が、諸君は決して其れを漬物の積りでたべてはいけない。なぜなら、其れは貧弱な料理の餘地を塡(うづ)める爲めに、鋸屑(おがくず)の代りに置かれてある生のキャベツに過ぎないのだから。 又其の料理に附属するフォークやスプーンが銀でもニッケルでもなく、鉛で出來て居ることを忘れてはならない。若しうっかりしてライスカレーの飯などを其れで觸ったりすると、飯が鉛筆で染めたやうに黒くなる事請け合ひである。……中公『谷崎潤一郎全集第七巻』所収「鮫人」p.65)
 ※鮫人:中国の伝説に登場する、人間の形をした魚。
 なおこちらは、松葉町の隣の町で育ち台東区立松葉小学校(タレント安達祐実さんも出身)の卒業で、永井荷風が千葉県市川から通ったそのころの浅草の「アリゾナ」では、家族で食事をしている。