『西洋古典叢書』中の一冊

YOMIURI ONLINE」ニュースによれば、京都大学学術出版会刊行の『西洋古典叢書』が通巻100册に達したとのことである。
 http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20130617-OYT8T00883.htm(「YOMIURI ONLINE」)
……古代ギリシャ・ローマの主要著作を新たに邦訳した「西洋古典叢書」(京都大学学術出版会)が通巻100冊目を突破した。内容は多彩で、半数が初訳。難解な印象を持たれがちだが、売れ行きは好調だという。
 「諸外国の叢書に比肩しうる、一大書林の形成を」と銘打って、1997年から刊行を開始。厳正な原典理解を基本としながら、大学生が読みこなせる平明な訳文にした。最終的に300冊を網羅し、西洋古典の知の体系化を目指す。
 目下の売り上げベスト3は、〈1〉『ニコマコス倫理学』(アリストテレス)〈2〉『政治学』(同)〈3〉『アエネーイス』(ウェルギリウス)。名著の久々の新訳とあって、それぞれ5000部に迫る。よくて数百部という業界の予測を覆し、同出版会編集長の鈴木哲也さん(55)は「読書人の潜在的な関心と合致した」と話す。……
 こちらは、恥ずかしながらこの叢書では第Ⅰ期刊行の、セネカ『悲劇集1』しか所蔵していないのである。1冊の単価も高いことと、わが所蔵の岩波版の『プラトン全集』、『アリストテレス全集』、『ギリシア悲劇全集』、東大出版会版の『古代ローマ喜劇全集』と重なる翻訳少なくなく、敬遠してきたことになる。


 さて、セネカの『悲劇集1』を購入したのは、1975(昭和50)年冥の会公演、渡辺守章訳・潤色・演出で、セネカ作の『メデア』を観劇していたからである。

[file:simmel20:Seneca5.jpg](「スタッフ」)
[file:simmel20:Seneca6.jpg](「キャスト」)
 同公演パンフレットで、潤色・演出の渡辺守章氏が、中村雄二郎氏との対談で述べている。
……エウリピデスの『メーディア』が傑作であることはぼくだって百も承知なのです。特に、女のコロスの詞など美しいと思いますし、メーディアの女心の微妙な襞のようなものもよく書けている(コロスの部分は、今度の潤色に借りました)。しかし、エウリピデスでは、おそらく、メーディアという形象あるいはその物語の神話的・祭儀的根の記憶があったからでしょうが、異国から恋する男について来て子供までもうけた女が、男に裏切られて、あのような〈子供殺し〉という恐ろしい犯罪を犯すに至る、その心理的推移に眼目があるように思います。別に日常的な女とは言いませんが、どちらかといえば普通の女が異常心理へと追い詰められていく劇です。
 ところがセネカはそうじゃない。エウリピデスでは主人公に同情的だったコリントスの女たちに代わって、コリントスの男たちがコロスを構成し、始めから外国人たるメデアに敵意を燃やし、それを人種偏見的な言葉でいう。しかも、その上、〈魔女〉として、反社会的な有害な存在として断罪しているでしょう。……
 中村雄二郎氏は、同対談で「故郷喪失、古い宇宙像の解体」という時代背景がセネカの悲劇にはあるとしている。
 またどこかで上演されたら観たいものである。
 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20110715/1310720532(「蜷川幸雄演出の『メディア』」)
 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20110809/1312868070(「ク・ナウカの『王女メデア』」) 

ヘシオドス 全作品 (西洋古典叢書)

ヘシオドス 全作品 (西洋古典叢書)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のサルビア・ガラニチカ(Salvia guaranitica)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆