不思議少女二人:映画『インターミッション』

 
 昨日3/6(水)は、東京銀座三原橋地下街にある銀座シネパトスにて、4月より閉館決定によるLAST ROADSHOW『インターミッション』を鑑賞した。かくべつこの映画館に思い入れがあるわけではなく、その発表されたキャスティングから大いに食指が動いたところへ、ある筋より特別鑑賞券を送ってもらったことで、啓蟄の翌日というタイミングで赴いた。映画館一般に関しては、すでにブログでまとめている。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110619/1308456390(「映画館について」)
 http://season.enjoytokyo.jp/cinema/vol11.html(「違いのわかる映画館=銀座シネパトス」)


 映画は、銀座シネパトスそのものが舞台であり主人公でもある、という設定。監督は樋口尚文。支配人クミコ=秋吉久美子と窓口・案内嬢ヒナコ=佐伯日菜子の二人がこの映画館と映画(エピソード)の案内役・進行役である。非現実と現実が奇妙に交錯し、訪れた14組の観客たちが、虚実皮膜の間でそれぞれのエピソードを演じる展開である。それぞれのエピソードの最後には、そのとき上映中との映画の監督と作品名がスクリーンに映し出され、これが巧みな趣向。引用であり、本歌取りである。あるいは、題名をうまく使っている。それほど映画通ではないのでわからない場合もむろんあったが、笑ってしまう。とくに第2、第5、第6、第11のエピソードには引き込まれた。
 第2は、ユリコ=ひし美ゆり子とヨーコ=畑中葉子の会話。暗澹とした日本の未来を憂い、ついには爆弾テロのことを語り始め実行に移すという話。この映画の最後にこの映画館の客として現われ、爆弾魔ヒグ・ボマー=樋口真継とともにシネパトスを爆破することになる。さすが『ウルトラセブン』のアンヌ隊員はスケールが大きい、驚いた。この爆破の終末は、ゴダール監督の『気狂いピエロ』を思い起こさせた。爆発の煙を見上げる3人、クミコ、ヒナコ、サキ=寺島咲の解放感ある表情がよかった。とくにヒナコ=佐伯日菜子は、『エコエコアザラク』の黒井ミサが憑依したようで魅力的。
 第5の客は、ヤクザの親分コーイチ=大瀬康一と兄弟分のビン=古谷敏。時代は1970年代前半の昔のこと。ヒナコの母マチコ=佐伯日菜子(二役)は、映画館のアイドルであった。歳をとったコーイチ親分は、ジイジイと自分になつく孫たちが可愛く、引退をほのめかした。映画終了後、背後の席の暗殺者がピストルを差し出し、「お孫さんたちからジイジイを奪えません」と言った。親分の話に感涙にむせんだようだった。これがいちばん面白かった。かつての東映ヤクザ映画へのとぼけたオマージュとなっている。このマチコ=佐伯日菜子は、『毎日が夏休み』の林海寺スギナ=佐伯日菜子そのものだ。リアリズムのドラマでないところでこそ、佐伯日菜子のいささか棒読み調の台詞回しが生きてくるのである。
 第6は、盲目の美少女サキ=寺島咲と、常連客のシロウ=佐野史郎との、ロビーの長椅子での会話。「なんで私のことがわかるの?」とシロウ。「匂いで」とサキ。「えっ、シャツもよく洗濯しているんだが」と狼狽えるシロウ。「亡くなった父の匂いがするんです」とサキに言われたときの、シロウの嬉しそうな安心したような表情がじつによかった。少女は寝たきりの母親に話すために映画館に来ているのだと語り、「AVも観ました」。「どう説明するんだ」とシロウが訊くと、喘ぎ声をマネる。ここのところのサキ=寺島咲の落ち着きは奇怪な味が漂い、感心した。
 第11では、映画鑑賞に来た父=中丸新将とその娘シオン=中丸シオンの会話。1年前妻を亡くした父にはすでに愛人ができていて、「こちらへ」と手招きされて現われたのがユウリ=森下悠里。豊満な胸元を隠さない衣装の彼女は、シオンと同年齢。驚き戸惑うシオンの唇にユウリが自分の唇を合わせているうちに、二人は激しく求め合う。見ている父は、予想外の成り行きに茫然自失。二人は去ってしまう。ジャック・ドワイヨン監督『ラ・ピラート(la pirate)』の、アルマ=ジェーン・バーキンとキャロル=マルーシュカ・デートメルスとの激しい女性同士の愛を思い出させる。この作品についてはブログでとりあげたことがある。※ラ・ピラートとは、女海賊、つまり略奪する女ということ。
 映画館と映画へのオマージュということでは、とうぜんジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』がある。成功した映画プロデューサーになった主人公のサルヴァトーレが終幕で、映画のキスシーンばかりを編集したフィルムを観るが、そこには女性同士のものはなかったと記憶する。この接吻のエピソードは、樋口尚文監督がそっと追加したかったのであろう。拍手。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110414/1302760815(「Merci Beaucoup Birkin!」)
 映画パンフレットの記事によれば、第12のエピソードの白いボールは、ロジェ・ヴァディム監督ほかの『世にも怪奇な物語』に出てくるのだとのこと。さっそくこの映画のパンフレットにあたると、第3部(現代篇)「悪魔の首飾り」の小道具と判明。第13での「それは暁というのです。お客さま」とヒナコ=佐伯日菜子が言う台詞は、ゴダール監督『カルメンという名の女』のものだそうだ。後で確かめてみたい。
 ともあれ、秋吉久美子佐伯日菜子という時空を超えた二人の不思議少女の案内で、映画というものの楽しさを存分にかつ自在に示してくれる映画だといえようか。ただ、「映画って、なんでもありなのよ!」とラストシーンでクミコに言わせるわりには、「反原発」の〈共同幻想〉にみずからを縛ってしまっているのは惜しいところであった。





 なお当日は、昼食は、「ねぎし」並木通り店で摂った。こちらは白たんうす切り(5枚)のねぎしセット、連れ合いは土鍋ハンバーグセットを注文。どちらも満足。映画鑑賞後は、「銀座コージコーナー本店」の2Fティーラウンジで、デザートケーキセットの苺のショートケーキをいただいた。ずいぶん待たされるが、専属パティシエが作って出してくれるので、握りたてのお寿司のように美味しかった。
 http://www.cozycorner.co.jp/product/ginza_honten/pc/tealounge.html(「コージコーナー銀座本店」)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家に咲く木瓜の花(白)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆