少女貝=森下愛子


 
 NHKの朝ドラ『純と愛』で、森下愛子が演じているヒロインの母親が、認知症を患う展開になっていて少し驚いた。たしかまだそれほどの歳でもあるまいが、この女優がもうそんな役を与えられることになったのか、と感慨をもったのである。
 舞台で観たのはたった一度であるが、印象に残っている。1982年7月、東京渋谷のPARCO SPACE PART3での唐十郎作、小林勝也演出の『少女仮面』の舞台である。宝塚スター春日野八千代渡辺えり子が、少女貝を森下愛子が演じている。「宝塚」誕生の物語を背景に、演じることと演じられる肉体の相克を独特の仕掛けで謎解きしようとしたような芝居であった。この作品の初演は、鈴木忠志演出による早稲田小劇場公演であったとのこと。春日野八千代白石加代子、少女貝は吉行和子。その後の状況劇場公演では、春日野八千代は李礼仙(現李麗仙)、少女貝は石原由起子。
 哀しいことに記憶に残っていない「時はゆくゆく乙女は婆ァに/それでも時がゆくならば/婆ァは乙女になるかしら」という歌が挿入されたらしいが、少女貝の森下愛子は、TVドラマの認知症の母の顔にも紛れもなく窺えるのである。
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の 、カランコエ・クイーン(ローズフラワーズ)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆