菊子は菊の季節に

 女優大西結花といえば、TVドラマ『スケバン刑事3』の印象もあるが、個人的には、横山博人監督『眠れる美女』の菊子のイメージが消えない。川端康成の『山の音』に『眠れる美女』の物語設定を融合させて映画化した作品で、ヒロインの菊子は、夫江口周一(原作は尾形修一)の不倫を耐え忍びつつ、いつしか、老いの孤独に沈みがちな義父の江口由夫(原作は尾形信吾)と心を通わせていく物語。「眠れる美女」として宿で待つ菊子を、由夫は愛撫し抱いてしまう。切なく哀しい世界である。江口由夫=原田芳雄、江口菊子=大西結花、江口周一=信太昌之ほか、吉行和子福田善之、石堂淑郎(脚本もこの人)、松尾貴史、鰐淵晴子、長門裕之など錚々たるキャスティングであった。原作では、菊子は「ほっそりとした色白」と描かれているので、大西結花は適役であったろう。

 菊子が小走りに台所へ行った。
 信吾は起きた。台所からもどって来る菊子に、廊下で出会った。
「あっ、お父さま。」
 菊子は突きあたりそうに立ちどまって、ぽっと頬を染めた。右手のコップから、なにかこぼれた。修一の二日酔いの迎え酒に、菊子が台所から冷酒を持って行ったのだろう。
 その菊子は化粧していなくて、少し青ざめた顔を赤らめ、眠いような目ではにかみ、紅のない素直な唇から、きれいな歯を見せて、きまり悪げにほほ笑んだのを、信吾は愛らしいと思った。(岩波文庫『山の音』)
 http://libir.soka.ac.jp/dspace/bitstream/10911/4045/1/nn24-061.pdf(「川端康成『山の音』と能」)
大西結花さま、お幸せに!

眠れる美女 (少女の文学 1)

眠れる美女 (少女の文学 1)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、マリーゴールド(山椒菊)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆