瞳の女優—アジャーニと堀北真希

 フランソワ・トリフォー監督『アデルの恋の物語』のヒロイン、アデルを演じたイザベル・アジャーニは、この映画以来わが贔屓のフランスの女優である。

 この女優について、かつて梅本洋一氏は、雑誌『CLiQUE』誌に書いている。
……どんな役を演じても、イザベル・アジャーニは、あの神秘的なまなざしを持つイザベル・アジャーニのままであり、映画に彼女が登場するだけで、たちまち、あの暗い夜の哀愁が映画に出現するのだった。映画を自分の色に変えられる彼女は、やはり、大女優なのである。……(『CLiQUE』1989.10/20号) 

 http://www9.nhk.or.jp/umechan/(「NHK梅ちゃん先生」)

 NHKの朝の連続テレビ小説梅ちゃん先生』も終幕を迎えつつある。演出家の蜷川幸雄氏は、どこぞの講演で「朝ドラ」をこき下ろしていたが、朝から蜷川〈歌舞伎〉を観せられたら敵わない。自律神経のバランスが危うい時間帯では、適した朝食メニューといえようか。
 ドラマの舞台は、戦時・終戦直後から復興を遂げ、高度経済成長へと進む、大田区蒲田である。小さな町工場と医院が、登場人物たちの主たる生活の場。ここをも拠点として成立している共同性は都市のものであるとしても、かのマルクスが、「ザスーリッチへの手紙」で「ロシアにおける再生の拠点」として注目した農村共同体とも重なるであろう。むろんドラマでは、負の側面については描いていないが、はじめからそこまでは期待していないので割り切りたい。
 http://plaza.rakuten.co.jp/yojiseki/diary/200406010000/(「ザスーリッチへの手紙:関本洋司のブログ」)
 ともあれ主人公の梅ちゃん先生を演じた堀北真希がよい。あまり動かずとも、まなざしに力と魅力がある。今後瞳の女優として、日本のイザベル・アジャーニになってほしいものである。






 なお梅子の母親=下村芳子役を演じた、南果歩は、昔そのデビュー作品小栗康平監督『伽倻子のために』で観ていて、清冽なフルヌードも惜しまず、熱演に鮮烈な印象をもったものである。 

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、朝顔。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆