朗読劇『鷗外の恋:舞姫エリスの真実』




 
 昨日9/15(土)は、東京文京シビックホール・小ホールで、文京区主催による、朗読劇『鷗外の恋:舞姫エリスの真実』を観劇した。水道橋駅を降りて、炎天下シビックホールまで歩いた。
 六草(ろくそう)いちかさんの話題の論考『鷗外の恋:舞姫エリスの真実』(講談社)を、朗読劇に仕立てた舞台である。六草さん役を、斉藤由貴、関わってくる人々を、ともさと衣小林隆が、原作の朗読を軸に演じている。ピアノ伴奏が、佐山雅弘で、開演前のジャズの名曲演奏は楽しかった。構成・演出が、劇団「ラッパ屋」の鈴木聡。
 鷗外の恋人で『舞姫』のモデルの、実在の女性とは誰であったのか。ドイツのベルリンで、娯楽としての拳銃の射撃訓練に参加した六草さんが、エリスらしき女性は、自分の祖母のダンスの講師であったと語ったドイツ人男性と出会う。じつは、それは勘違いであったことが判明するが、そこから探索の悪戦苦闘が始まるのだ。横浜港からドイツ客船それも一等船室に乗船して帰国したエリーゼの正体を追って、ベルリンの住民記録および地区教会の結婚記録などにあたるが、壁にぶちあたってしまう。プロテスタント教会の「堅信礼(幼児洗礼を受けた者が、自己の信仰告白をして教会の正会員となる儀式)」記録からついに、両親がポーランドのシュテ(チェ)チンの出身であったこと、エリーゼが少女時代に父は亡くなっていること、が判明したのだ。母はエリーゼを連れて、ベルリンに来て仕立て屋として住み着き、その折、ベルリン滞在中の鷗外と出会ったのではないかと推定される。ここまでの探索の過程は、スリリングで興奮を覚えた。
 横浜からエリーゼを帰国させた鷗外は、いずれベルリンに赴く約束を交わしていたのではないか、と六草さんは、慮るのである。母親への忠誠からその計画を断念し、心ならずも結婚(後離婚)することになってしまったのだ。鷗外のエリーゼへの恋は、人生を賭けた真実の激しいものだったのだ、と原作者は訴えているようである。面白かった。
 なおこの公演は、鷗外生誕150年記念の企画の一環で、たった一日(2公演)だけの舞台である。10/28(日)には、大ホールで鴎外訳のオペラ、グルック作『オルフェウス』公演が企画されている。昔山中湖そばの三浦環の墓を訪れたこともあるし、秋競馬で万馬券でも的中できれば鑑賞したいものである。

鴎外の恋 舞姫エリスの真実

鴎外の恋 舞姫エリスの真実

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、タマスダレ(玉簾)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆