『エリザベート』観劇記

 

 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20111215/1323937683(「春野寿美礼さん、杜けあきさん」)
 一昨日5/31(木)は、東京皇居前帝劇にて、東宝エリザベート(Elisabeth)』のマチネー公演を観劇。ハプスブルク帝国悲劇の皇后の栄光と破滅、その魂の彷徨人としての人生を追憶し感動した。むろん歴史上実在の皇后の実像とどこまで重なっているのか知らないが、物語のなかの皇后には共感がもてた。
 当日のキャスティングは、エリザベート(皇后)=春野寿美礼、トート(黄泉の帝王)=マテ・カマラス、フランツ・ヨーゼフ(皇帝)=石川禅ゾフィー(皇太后)=杜けあき、ルドルフ=大野拓朗、少年ルドルフ=加藤清史郎、エリザベート暗殺者ルイジ・ルキーニ&劇全体の狂言廻し役=高嶋政宏など。なんといっても目玉は、ウィーンの『Elisabeth』で、トート役をすでに500公演こなしているというマテ・カマラスの参加である。日本語の歌詞もまったく気にならなかった。情念のうねりを自在に表現し酔わされた。加藤清史郎くんの少年ルドルフの孤独と不安を励ますところは、やさしさを、反乱に加担し母エリザベートにも見捨てられ絶望する青年ルドルフに拳銃を手渡すところでは、冷徹さを歌い上げていた。イメージ的には、まるでL'Arc〜en〜Cielのhydeみたいだ。ウィーン『エリザベス』DVDを観ると、たとえばエリザベートの結婚式の場面では、トートの笑い声のみが聞こえる。虚無的な雰囲気がある。日本(東宝)版は、トートは通して甘さと野性味が濃く出ているようだ。
 春野寿美礼は、可憐さとスケール感がともにあってよい。1幕(1.AKT)の、「私だけに」の3重唱、2幕(2.AKT)の「夜のボート」のヨーゼフとの、「愛のテーマ」のトートとの2重唱は、歌詞が聴き取りにくい部分もあったが、それぞれ哀切を込め感動的であった。何度も舞台を経験し、さらに完成されていくのではないか。ゾフィー杜けあきもよかった。ウィーン版(DVD)のゾフィーに比べると、やや控えめな皇太后あるいは日本的母親といえる。
 暗殺者で狂言廻し役の高嶋政宏は、大活躍。高嶋兄は舞台で、高嶋弟は法廷で汗流しているな。反ハプスブルク家の民衆蜂起のところで、ナチスの鉤十字の旗が広げられた。幻想のシーンであろうが、これは、20世紀の「民主主義」の危うさを暗示していて面白い。
 なおトートダンサー(8人)のなかには、ローラン・プティピンクフロイドバレエ』に出ていた人もいて、しなやかな動きで堪能した。
 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20110711/1310386659(「ピンクフロイドバレエ」)
(脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ、演出・訳詞:小池修一郎音楽監督甲斐正人、美術:堀尾幸男、オリジナルプロダクション:ウィーン劇場協会)





⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家に咲いた、カシワバアジサイ(柏葉紫陽花)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆