現代学校教育への提言

 家庭教師経験豊富で教育環境設定コンサルタントとかの肩書きの松永暢史(のぶふみ)氏の『この国をダメにした「学校教育」』(主婦の友新書)は、教育関係の資料の掲載に多く頁を割いた、軽い作りの新書。本体価格780円で購入するほどでもない。ユニクロででもそのお金を使うべし、書店の立ち読みで、著者のメッセージは十分伝わるだろう。「学校がどうしようもなくつまらない」という少年少女らの声を代弁し、「福島原発事故で露呈した、この国の大人のダメさかげん」を生んだ戦後=現代学校教育の問題点を指摘し、その処方箋を提示したということである。いかにも時代の思潮に乗った言説ではある。
 共感を感じたのは次のところ。
……豊かでないときは豊かさを求めて教育を行う。でももし、豊かになった後はどのように教育するのが正しいのか。豊かではない時には豊かになるというモチベーションがあった。
 しかし、豊かになった後には、面白くて役に立つからということ以外に本質的なモチベーションを持ち続けることは難しくなる。
 70年代後半、そこには教育の大きなターニングポイントがあったはずである。それを見過ごした人たちが今、苦しんでいるのだと言える。言うまでもなく、その代表が文科省と教職員労働組合と現場教師たちの多くなのである。というよりも、その上の、国民が選んだ政治家たちだったかもしれない。そしてこの人たちが結果的に苦しめているのが、その時はまだ生まれていなかった今の子供たちなのである。……(pp.79〜80)
 教育政策における「ヴィジョンと発想・創造性の欠如」が、GHQ占領政策以降の全体的日本語使用能力の低下を背景にして、学力低下に代表される今日の教育問題を生んだのだというのが、著者の認識である。馬鹿の一つ覚えのような「日教組批判」&「ゆとり教育批判」に堕ちていないところを評価したい。
 著者が解決策として提案している中、6・3・3制から4・4・4制への移行、教科書の自由化については賛成である。
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の、綻び始めた白木蓮の花芽。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆