アメリカの大学

 日本の教育を考える上で、アメリカの大学の現状をレポートした、宮田由紀夫関西学院大学教授の『米国キャンパス「拝金」報告』(中公新書ラクレ)は参考になる。私立と州立そして新興の「営利大学」という経営形態のアメリカの大学は、「冷戦当時の米ソの軍拡競争」に似た熾烈な競争にしのぎを削っているようである。競争であるから、研究と教育の質を向上させる効果は当然あるだろうが、非生産的な競争の面も多いことがわかる。
 日本の高校では、世間的常識で考えれば大学受験の成果か野球の甲子園出場をめぐる競争が中心である。それが、アメリカの高校でも案外同じところがあるらしい。
……筆者がセントルイスで知り合った不動産業者は、少しでも物件が高値で売れるように、「本物件の学区の高校」の大学合格実績をチラシに書いていた。たしかに、ハーバード、シカゴ、ノースウェスタンなどがあげられていた。「本当にこんなにすごいのですか」と尋ねたときには、不動産業者は言葉を濁したが、実は少数の優秀な学生が複数の大学から合格通知を受けているのである。アメリカでも合格実績は高校の格付けに使われるのだと感じた次第である。……(p.145)
 アメリカでは、学校スポーツの花形は、大学におけるフットボールとバスケットボールだ。フットボール重視の大学では、監督の給与のほうが、教授どころか学長よりも高い場合が多いそうである。「大学のスポーツ選手は特定の楽なカリキュラムの学科に集中するし、監督やスポーツ部長からそう指示される」そうで、かつてプロのフットボール選手として活躍したマンリー(Manley)は、じつは「字が読めない」と公に認めたとのこと。「字が読めない人物が高校、大学に通っていたこと自体が驚きだが、スポーツ選手の教育が改めて関心を集めた」。
 アメリカの大学教授の地位をめぐっては、テニュア(終身在職権)というのがある。大学院を出て、「Assitant Professor(助教授)」として一定期間勤務すると、業績審査の上「Associate Professor(准教授)」に昇進して、テニュアを得るらしい。テニュアを得ると原則として解雇されない。もともとは「学問の自由」を守るために作られた制度であるが、学生への教育軽視につながるとの批判も生まれているとのことである。今日人件費抑制のため、パートタイム教員や、フルタイムであっても初めからテニュア審査の対象にならない非テニュア教員での採用が増加している。この非テニュア教員は、講師の職階で多くは助教授にもなれず、准教授や教授への昇進の可能性はほとんどないらしい。科学・工学系の博士号取得者には、ほかにポスドク(Post Doctoral Scientists/Engineers)という任期付の研究員の道もあるが、待遇は低く、供給増で就職まで時間がかかる。外国人ポスドクが増加し、研究職全体の賃金水準にマイナスの影響を及ぼしているようである。
……世界中から優秀な人材を集めてくることは、アメリカにとってメリットがある。そこまでの教育費用を留学生の母国が負担してくれるからである。サッカーでヨーロッパの名門クラブが世界中から優秀な選手をスカウトして繁栄しているのと同じである。ヨーロッパのチームは外国人選手が一流になるまでの訓練費は負担しないで済んでいるのである。……(p.185)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110417/1303024186(「姪とイリノイ大学」)
 http://www.r-agent.co.jp/kyujin/knowhow/tatsujin/20101118.html(「日本人留学生」)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町に咲く沈丁花4。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆